0cm「愛に行く」(23) | 数cmから1万kmの恋

0cm「愛に行く」(23)

「ごめんね。そんなに時間かからないと思うけど。終わったらすぐに帰ってくるから。」

「わかった。また昼寝でもしてるよ。じゃ、気を付けね。」

ジョンがパタンとドアを閉めると、静寂の中に青いスーツケースと私がぽつんと立っているだけだった。

昼寝するとは言ったものの、なんだか落ち着かない私はスーツケースの中身を整理することにした。

今日でニューヨークも4日目。

2日後には日本へと帰らなければならない。

今夜着るパジャマや明日の朝使う化粧品以外の洋服は折りたたみ、隙間だらけのスーツケースへと戻した。

時間を持て余した私は、ニューヨークに着いてから今日までの出来事を手帳に記していくことにした。

初日にハワイから来たビジネスマンに助けられ、どうにかユースホステルに辿り着いたこと。

2日目にはジョンと合流し数々の観光名所を訪れ、エンパイア・ステイト・ビル展望台でのロマンティックな瞬間を経験したこと。

3日目は今後の2人について話し合った後、ジョンにスプーンをされながら寝たこと。

そして4日目の今日はこうしてジョンとずっと一緒に居られること。

簡略化して書くつもりだったが、その時の状況や自分の心境なども少しづつ付け足していた。

他にする事を無くしてしまった私はipod shuffleを取り出して、数か月前に手に入れたColbie Calletのアルバムを聞くことにした。

イヤフォンを付けてごろんとジョンのベッドに仰向けになり、心地よい音楽に耳を傾けていると、ある変化に気が付いた。

今まではさほど歌詞などを気にせずに聞き流していたが、今日ばかりは不思議と一曲一曲のフレーズが頭の中に入ってくる。

勿論全ての英語の歌詞が聞き取れているわけではないが、聞き進めていくうちに幾つかの曲が自分の現在の心情がとリンクしているのに気が付いた。





"How am I supposed to tell you how I feel
I need oxygen
Oh baby if I was your lady?
I would make you happy
I'm never gonna leave, never gonna leave
Oh baby I will be your lady
I am going crazy for you"

”私の気持ちをどう伝えたらいいの?
空気を吸い込まないと。
私がもしあなたの彼女だったら?
あなたを幸せにするよ。
そして決してあなたの元から離れない。
私はあなたの彼女になるの。
そうしたらもう夢中になるはず。”



"If you just realize what I just realized,
Then we'd be perfect for each other,
And we'll never find another.
Just realize what I just realized.
We'd never have to wonder if
We missed out on each other now."

"私が気づいた事にあなたも気が付いてくれたら、
私たちはお互いにもう完璧で、他の人を探す必要もなくなるでしょう。
お願いだから気が付いて。
チャンスを逃したのかなんて、いつか思わなくてもいいように。"





歌を聞き進めていくうちに小さく積み重なった感情が崩れ落ち、数滴の涙がこぼれ落ちて行った。

イタズラな程に、私の心を見透かしたような歌詞は萎えた心を刺激してく。

私は狂ったように同じ曲を何度も繰り返し、耳に流し込んでいった。

”明後日にはジョンと離れなくてはならない。日本に帰ってから私は、そして彼はどんな生活を送るのか?彼は何も無かったかのように普段の学校生活にもどるのか?私はどんな気持ちで日本で過ごすことになるのだろう?”

考えれば考えるほど風船のように不安が大きく膨らむばかりだった。

自分の疑問に対する答えは推測だけで、実際にその状況に陥らなければわからない未知なものである。

そんな完全に消極的スパイラルに陥った私は、同アルバムに収録されているFeeling Showの歌詞を頭の中で辿って行った。




"He told me
Wait here patiently but
I wonder if he's kidding
Well maybe he could be serious now
Maybe not
Maybe not
Because'

Love is crazy
Pretty baby
Take it real slow
My feelings show
All you have to do
Is never ever let go
My feelings show
And I want you to know
My feelings show

I'm sorry it's taking me so long
To find out what I'm feeling
I wonder if it will come to me
Maybe not
Maybe not
Because'

Love is crazy
Pretty baby
Take it real slow
My feelings show
All you have to do
Is never ever let go
My feelings show
And I want you to know
My feelings show

How I want you to know

What I'm trying to say is that
I'm feeling a change and
I'll let it take all over
If you need time away
I won't ask you to stay
But I don't want to lose you...."

"ここで辛抱強く私を待ってるって言ってたけど、冗談なのかな。
今だったらもう本気かも。
まだかな。まだかも。
だって…。

愛っておかしなくらい時間がかかるもの。
私の気持ちみたいに。
大事なことは決してそれを逃してはいけないってこと。
そしてあなたに私の気持ちを知ってもらいたいの。

自分の気持ちに気が付くのに、時間がかかってしまってごめんね。
ちゃんと見つけられるかな。
まだかな。まだかも。
だって…。

愛っておかしなくらい時間がかかるもの。
私の気持ちみたいに。
大事なことは決してそれを逃してはいけないってこと。
そしてあなたに私の気持ちを知ってもらいたいの。

あなたに気持ちを伝えたい

何かが変わっていく事を私の心に留めておくこともできるの。
時間がもう少し欲しいなら、傍にいてなんて言わない
でもあなたを失いたくない...."






歌詞を覚えてしまうくらい、何度も口ずさんでいると少しづつポジティブな気持ちへと変わって行った。

ニューヨークに来て”きちんとジョンの顔を見て気持ちを伝える”という目標は達成した。

そうすれば何となく彼も私がどれだけ真剣かわかって、付き合う事を了承してくれるのではないかと淡い期待を抱いていた。

これからまた離れ離れになる事によって、私とジョンの関係が変わってしまうのだけは避けたい。

"but I don't wanna lose you."の部分だけが強調されて頭の中で無限にループしていった。