ご機嫌な昼下がり
込み入った住宅街の細い路地を歩いている。自分の喉元くらいまでの
塀に挟まれていて、庭にある柿の木や、山椒の木なんかの枝なんかに
手をのばせば触れる事ができる路地。実際に今木の枝に触れている。
何処からか、お母さん無理しないでよとか、お昼のメロドラマの科白
だったり、いろんな生活音が耳に入ってくる。掃除機の音なんかも。
猫がそそくさと塀の穴から穴へこちらを一瞬警戒しながら横断したり。
首輪はしているから飼い猫だろう。しかし不細工な猫だ。ぷっと吹き出し
そうになるくらい不細工で愛らしい。
そんな路地での些細な出来事は脆弱で信頼性の薄い僕の記憶に入力さ
れるわけだ。正直どうでもいい事だが、頭の中にはいってくる。一
体僕の頭はどれだけの容量があるのか、こんな些細な事を記憶して、
大事な事を消し去っていないかなどと危惧して。大事な事って何だ?
なんて自分に問いかけるのだけど、そうかしこまって聞かれても困る
、という具合に、まず大事な事とは何かという思考からはじめなけれ
場ならないから、すぐに記憶とはリンクしない。
その日は天気もよくて、いらぬ事を考え、五感をちょっと湿らした
海綿のたわしみたいに柔らかく周囲にさらしていた。
前方から歩いてくるはげ頭の青年。第一村人発見!的に今日初の僕と
すれ違うんだけれど。なんせ細い路地だし、他の人なんていない、
あれ困った、こういう時は視線を何処に運ぶかということで困る。
第一村人であるから、僕は彼に興味津々である。興味があるから観察したい、
しかし彼は僕と向き合って歩いてくる訳だから、あまりまじまじ見る訳
にも行かない。塀の中の木々を眺める振りをしてちらちらっと横目に彼を
見たりする。あぁ、その煮え切らなさは僕の中で憤懣にも変わってくる。
見たいんだ見たんだよ。そこで僕は決心をした、どうせ今後彼に会う事も
無いどう思われたっていい。もう彼から目をはなさない。
ふむふむ彼のパンツは。これは普通の職業をしている人ではない、細かに
曲線を描いた草模様がさりげない色使いで、パンツ全体に広がっている。
簡単に言えば、めだたない草模様の生地のパンツをはいている。
上半身は白のぴったりとしたTシャツだ、非常に上品に着こなしているので
嫌らしさは感じない。シルバーのネックレスは表に出さずにTシャツの中に
入れている。ここで前方五メートルくらいに彼がいる。彼の目を見る。彼も
僕の目を見る。
前方三メートル。まだ、お互い見つめ合う。
前夫二メートル。僕は負けない。
「こんにちは」会釈とともに彼が言った。
「ご、ごきげんよう」会釈とともに僕が言った。
なんてすがすがしい昼下がりの午後だろうか。彼はきっといい人だろう。
お、先ほど考えていた大事な記憶ってのが一つ思いついた。ほんの15秒
前の記憶だ。きっと大事だ。
ところで僕は何故、「ごきげんよう」などという言葉が出たのか、不思議で
しょうがない。僕自身ご機嫌だったからかもしれない。
塀に挟まれていて、庭にある柿の木や、山椒の木なんかの枝なんかに
手をのばせば触れる事ができる路地。実際に今木の枝に触れている。
何処からか、お母さん無理しないでよとか、お昼のメロドラマの科白
だったり、いろんな生活音が耳に入ってくる。掃除機の音なんかも。
猫がそそくさと塀の穴から穴へこちらを一瞬警戒しながら横断したり。
首輪はしているから飼い猫だろう。しかし不細工な猫だ。ぷっと吹き出し
そうになるくらい不細工で愛らしい。
そんな路地での些細な出来事は脆弱で信頼性の薄い僕の記憶に入力さ
れるわけだ。正直どうでもいい事だが、頭の中にはいってくる。一
体僕の頭はどれだけの容量があるのか、こんな些細な事を記憶して、
大事な事を消し去っていないかなどと危惧して。大事な事って何だ?
なんて自分に問いかけるのだけど、そうかしこまって聞かれても困る
、という具合に、まず大事な事とは何かという思考からはじめなけれ
場ならないから、すぐに記憶とはリンクしない。
その日は天気もよくて、いらぬ事を考え、五感をちょっと湿らした
海綿のたわしみたいに柔らかく周囲にさらしていた。
前方から歩いてくるはげ頭の青年。第一村人発見!的に今日初の僕と
すれ違うんだけれど。なんせ細い路地だし、他の人なんていない、
あれ困った、こういう時は視線を何処に運ぶかということで困る。
第一村人であるから、僕は彼に興味津々である。興味があるから観察したい、
しかし彼は僕と向き合って歩いてくる訳だから、あまりまじまじ見る訳
にも行かない。塀の中の木々を眺める振りをしてちらちらっと横目に彼を
見たりする。あぁ、その煮え切らなさは僕の中で憤懣にも変わってくる。
見たいんだ見たんだよ。そこで僕は決心をした、どうせ今後彼に会う事も
無いどう思われたっていい。もう彼から目をはなさない。
ふむふむ彼のパンツは。これは普通の職業をしている人ではない、細かに
曲線を描いた草模様がさりげない色使いで、パンツ全体に広がっている。
簡単に言えば、めだたない草模様の生地のパンツをはいている。
上半身は白のぴったりとしたTシャツだ、非常に上品に着こなしているので
嫌らしさは感じない。シルバーのネックレスは表に出さずにTシャツの中に
入れている。ここで前方五メートルくらいに彼がいる。彼の目を見る。彼も
僕の目を見る。
前方三メートル。まだ、お互い見つめ合う。
前夫二メートル。僕は負けない。
「こんにちは」会釈とともに彼が言った。
「ご、ごきげんよう」会釈とともに僕が言った。
なんてすがすがしい昼下がりの午後だろうか。彼はきっといい人だろう。
お、先ほど考えていた大事な記憶ってのが一つ思いついた。ほんの15秒
前の記憶だ。きっと大事だ。
ところで僕は何故、「ごきげんよう」などという言葉が出たのか、不思議で
しょうがない。僕自身ご機嫌だったからかもしれない。