夕立前の空気のにおいを感じ、夕立が過ぎ去った後の夕暮れを眺めていたら | THROUGH MY FINDER

夕立前の空気のにおいを感じ、夕立が過ぎ去った後の夕暮れを眺めていたら

 夕立前の空気のにおいを感じ、空を眺めたら、やはりそこには下界を威圧するような
圧倒的な力を有した、コントロールを失い膨張する雲が世界を覆い始めていた。
 僕は急いで草履を履き、つまづいてこけそうになるがなんとかバランスを取り直し、
洗濯物を欠けた物干竿まで辿り着く。干したものがずり落ちてしまわぬように、慎重に
物干竿を台から外して、屋根のあるガレージの中に移そうとした時、僕の頬を微小な
雨粒が打った。夕立がやってきたのだ。僕は急いで屋根のあるところに物干竿をうつし
た。ガレージの屋根が激しく雨に打たれ暴走したドラム演奏者のたたく音のように聴こ
える。蝉の鳴く声しか無かった世界は、今は民族音楽さながら打楽器の音にあふれ
別の世界に変化した。その音は時間とともに変容し、乾いた地面を打つ音も、ぬれた地
面を打つ音に移り行く。湿気たぬるい空気と、ひんやりと身体の温もりを奪う空気が
行き交う。すべてに飽きる事が無い。僕は自分の体温を奪おうとするものに抗い、自分
の身体を自分自身によって熱くする。
 夕立が過ぎた、今は雨の粒が至る所でしたたって何かを打つ音しかしない。蝉が鳴き始める。
刻一刻と変化は続く。夕立が過ぎると、西の空に鮮やかなオレンジと青のグラデーションを
生む、かすかな雲が二色のマーブル調としてかき混ぜられる。
 僕は自分の現状を良いものだとは思っていないが、こういう夕景の変化を目にすると
当分このままでもいいかという甘い考えに陥るのだ。僕は自分の事は考えちゃいない、
自分をたたき台にし、人を考えている。そして足踏みをしている。日々、いらぬものを
鉋でそぎ落とし、しかし、そのいらぬものは知らず知らずのうちにまた魚の目のように
分厚くなるのだが、それをまた削ぎ落とすのである。そんなことをずっとしている。
それはどんなことよりも僕に必要な事だという確信に近いものを感じ取ってはいた。