ジャムパン | THROUGH MY FINDER

ジャムパン

「私はジャムみたいな女よ。」
「何のジャムなの?」
「梅よ、とにかく甘くてとても酸っぱいやつ。」
「パンに合う?」
「もちろん。」
「じゃぁ、大丈夫だ。僕はパンの様な男なんだ。」
「どんなパンなの?」
「岩窟のミニチュア版のような石壷のオーブンで焼かれた、山形パンだよ。」
「そればっちり。とても甘い梅ジャムは山形パンにぴったりなの。」

僕の表面は細かな穴にしみ込むように入ってくるジャムの様な女性を待っていた。
それが彼女だった。彼女もまた、自分がしみ入りうる男性を求めていた。その甘みと
酸味が生かされるであろう男を望んでいた。

ここは中東の料理が楽しめるレストランだ、普段はこんなところに一人できやしないが。
かろうじて意識は飛んではいなかったものの、僕は珍しくひどく酔っぱらっていた。長い
間山の中にたった一人で籠り、必要最低限の買い物以外は自給自足の生活をしていた僕は
下界に下りてきていた。八年だ。八年間人里離れた山の中でたった一人隠遁生活をしてい
た。
僕の耳に入ってくる雑音、そしてそれは耳鳴りのようにずっと僕の頭の中をぐるぐると
かき回すものだった。それを取り除く為に八年かかったのだ。厳密に言うなればそれを
取り除いたというのは正確ではない、それは僕の頭の中に吸音スポンジの様なものを作
り上げたと行った方がいいかもしれない。かき回すものは八年かかって、僕の頭をかき
回しながら、その振幅を徐々に失い、確かにそこにはあるが、音として認識できない程
度のものに減衰していったのだ。僕はもう大丈夫だ。これから下界に下りて何をするか
は、おりてから脳漿を絞ればいいと思った。とにかく僕は昔来ていた衣服に身を包み、
下界に下りる事にした。そして一ヶ月が過ぎ、僕は八年ぶりに酒を飲んだ。

僕はよっぱらって、少し自分を休める為にその中東料理のレストランに入った訳だが、
そこではベリーダンスのショーが催されていた。ぴったりとしてはいるものの、その
端は緩やかな波を打つ艶やかな衣装を着た女性が3人巧みに腰を振るわせ踊っている。
ただ一人の女性の踊りは僕を甚大に魅了した。彼女の身体の動きはしっとりと潤い、
時に激しく波立ち、空気を伝い、僕の乾いた部分を包む、そして”じんわり”と僕の中に
しみ込んでいった。僕は瞬きも忘れて、彼女の動きに見入っていた。そして彼女の
視線も僕の方を時折睥睨するのだ。

催しが終わり、三人は奥の方へ去っていった。少しの間僕は心を奪われ放心状態に陥った。
仔細なことは抜きにして、ただ彼女に惹かれていた。
かたと隣でグラスを置く音が聞こえた。
「ずっと私だけ見ていたでしょ?」
僕の放心状態はその一言によって解かれた。彼女だった。