モンベル夫人 | THROUGH MY FINDER

モンベル夫人

さて、僕の知り合いにモンベル夫人と呼ばれる女性がいた。その人は山登りを趣味としていた。

僕が山岳好きの知人と山登りをともにしたときに、「こちら上級者コース(←)こちら初心者コース(→)」と書かれた看板の前で出会った。モンベル夫人は山岳に詳しいわけではない。ただ、山に登ることが好きなだけだ。山に登っていても、実のところてんで風景など見ていない。登るときは次に自分が足を運ぶ一点のみを見つめ、一歩一歩ゆっくりと足を運ぶ。全身モンベルのアウトドアウェアに身を包んでいる。だからモンベル婦人と名づけた。名づけたちょうの本人はモンベルなんて糞だといっていた。

モンベル夫人は夫人といわれていはいたが未婚だった。過去に結婚していたのかもしれないが、その時はは独身だった。きっとずっと独身だったんだろうと思う事は失礼だと思う。

カノジョは美人でも不美人でもなかった。スタイルも良くも悪くも無かった。これといって特徴があるわけではなかった。ただ、カノジョは何に対しても一つのことに固執した。バッグはエルメスに固執し他のブランドのものは決して使わなかった。靴はgucciだ。カノジョはお金持ちのようだった。仕事は何をしていたかは僕の知るところではない。

カノジョは同じ山しか登らなかった。しかも同じルートしか上らなかった。それに固執した。我々がこちらのルートから上れた綺麗な滝が見えますよと助言しても、まったく聞く耳を持たなかった。彼女はいつも同じルートを、なるべく同じ一歩を踏もうと努力していた。そこにはモンベル婦人のわだちができるくらい。カノジョはこの十年間ずっと同じルートを登り続けた。一度モンベル夫人になぜこの山のこのルートしか登らないのですか?と聞いたことがある。モンベル夫人はこう答えた。「ここしかないのよ。これしかないの。」きっとすべてにおいて、同じような質問をしたとしても「それしかない」という答えがもどってくるのではないだろうか。カノジョはすべての選択肢の中から、それしかないと決定して、ずっと生きてきたのだろう。私の道は一本しかない。それ以外にないと。

カノジョは昼食はうどんしか食べなかったらしい。うどんしか食べないせいで、カノジョはうどんアレルギーになった。うどんアレルギーになっても彼女昼食の選択肢はうどんしかなかった。カノジョはうどんアレルギーによる、急性うどん中毒によってこの世を去った。彼女にはそのような人生しか歩めなかった。

モンベル夫人よ安らかに眠れ。