iPadをめぐるGoogleとMicrosoftの思惑 | 遊悠デジカメ&ビデオ

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2012年06月20日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

Surface

Microsoftから、Windows RT/8を搭載するタブレット端末「Surface」が発表された。

今回はSurfaceを話のきっかけにして、最近のMicrosoftとGoogleにおけるiPadをめぐる思惑について書いてみたい。

まずSurfaceだが、デザインやつくり込みの部分でMicrosoftとしてはかなりがんばった製品であることがうかがえる。

磁石で装着するキーボード付きスクリーンプロテクターのタッチカバーは、明らかにiPadのスマートカバーにヒントを得たものだが、電気的な接点が設けられているなど独自の工夫もある。

今のところ性能や価格は未発表で、ほかのタブレット端末とほぼ同等になるといわれるが、それはタブレット市場に参入するうえで最低限達成すべき条件にすぎない。

バッテリー駆動時間もそれなりの数字を達成すると思われるが、そのあたりは発売までに最適化すべき項目に含まれよう。

一方、iPadとの差別化を図ろうとした部分で、製品の方向性が曖昧化しているところもある。

それがまたMicrosoftらしいわけだが、後述するように差別化の眼目として切り捨てられなかった仕様が、メリットにもデメリットにもなりそうだ。

また、MicrosoftはSurfaceによって、Xbox製品や音楽プレーヤーZuneと同じく、同社自身が主力製品分野でのハードウエア事業に参入することを決めたことになる。

Xboxの発表時は、そうしたゲームシステムを他社にライセンスしていたわけではないので、パートナー企業との摩擦が少なかった。

だが、今回の新製品を「Windowsを搭載したタブレット端末」という括りで見るならば、これまでライセンスを受けていた家電・PCメーカーの心中は穏やかではないはずだ(事実上、Zuneのときと同じく横目で見ているほかないのだが…)。

すでにWindows RT/8を搭載するサードパーティ製のPC/タブレットのハイブリッドデバイスは複数発表されているので、パートナー企業にライセンスが行われないわけではない。

しかしWindows RTに関して、80~95ドルのライセンス料を要求しているとの報道もあり、これではiPadに対抗しようとするサードパーティにとって現実的な価格設定ができなくなる恐れがある(あるいは体力が続くまで利益を削るか、だ)。

しかもMicrosoftにとっても、Surfaceに自社ブランドを冠したからには、製造から販売までを自前で開拓したサプライチェーンやセールスチャネルでサポートせざるをえない。

そのような展開において、MicrosoftがAppleと互角に渡り合えるのかは未知数だ。

それでもiPadと本気で戦うには、ビジネスモデルを変更するしかないというのがMicrosoftの結論なのであろう。

さて、先に触れたSurfaceの方向性に関してだが、最大の争点はPCとタブレット端末のハイブリッドという成り立ちにある。

タッチカバーにトラックパッドが内蔵されていることから、画面上にポインタが表示されて操作することになるが、たとえばタッチカバーを裏側に回したり、完全に外した場合には、ポインタが非表示となり、完全なタッチ操作モードに切り替わるのだろうか?

また、16:9の横長ワイド画面、ロゴやインカメラの位置、タッチカバーの装着方向、そして筐体裏側のスタンドなど、すべてのデザイン要素がSurface利用時の標準的なオリエンテーションがランドスケープであることを示している。

だが、かつてのソニーVAIO Pがそうだったように、縦幅が狭いワイドスクリーンは縦長の写真やWebページを閲覧するには適さない。

もちろん、本体のオリエンテーションをポートレートに変えることもできるが、そうなると横幅が不足ぎみで、Webページの表示は窮屈なものになろう。

さらに、PC的に利用するための複数のポート類が筐体の左右にあるので、ケーブルを挿した状態での縦持ちは現実的ではない。

iPadのスクリーンが4:3の縦横比をもち、メインインターフェースをドックコネクタひとつに集約しているのは、タブレット端末として考え抜いた末の潔さだが、PCとタブレットのハイブリッドという立ち位置のSurfaceには、よくも悪くもこのような曖昧さがつきまとう。

機能を絞り込んだ潔さと多機能な曖昧さの、どちらを消費者が選択するのか? 

その答えは、Surfaceが発売される2012年秋から2013年にかけて浮かび上がってくることだろう。

こうしてハードウエアでAppleを牽制しつつも、Microsoftには本業のソフトウエアのほうでも頭痛のタネがある。

それはGoogleによるモバイル・オフィススイート、QuickOfficeの買収だ。

ご存知のように、Microsoft Office系製品はMicrosoftにとってドル箱商品。

SurfaceでもMicrosoft Officeのバンドルがセールスポイントのひとつであり、それが自社製品にインストールされていても儲けにはならないが、ハードウエアを販売するための呼び水になると考えている。

これに対し、iPadにはOfficeがないため、その代替品として人気を博してきたのが、機能面ではかなりサブセットなQuickOfficeだ(逆にいえば、Officeなしで売れ続けているのがiPadであり、それでもなんとかなることに気づかされた人も多い)。QuickOfficeはAndroidデバイス向けでも、かなりのシェアを有している。

Microsoftは否定しているものの、少し前にiPad用Officeを試用したという人物のニュースが流れたことがある。

最近では、米News Corporation傘下のThe Dairyによって、iPad版Officeのリリースが11月10日になるとの報道もなされた。Android版も同時リリースの可能性が高い。

iPad/Android用Officeが登場すればそこそこ売れることはまちがいないが、問題はそのタイミングだ。

Surface発売の前では、みすみす敵に塩を送ることになる。

そのため、OfficeつきのSurfaceで新規ユーザーを惹きつけたのち、満を持してiPad/Androidの既存ユーザーをターゲットにしたいというのがMicrosoftの本音だろう。

そんな折に発表されたのが、ビジネスアプリケーション分野でのライバル、GoogleによるQuickOfficeの買収だ。

当然ながらGoogleは、クラウドサービスのGoogle Drive(年内にGoogle Docsから完全移行)とQuickOfficeの連携を強化して、モバイル環境におけるOffice系文書作成における覇権を握ろうとするだろう。

Microsoftにとっては、モバイル版OfficeのリリースをQuickOffice対抗で早めてソフトウエアとサービスのインストールベースを確保するか、あるいはSurfaceというハードウエアを売るための武器としてとっておくかというジレンマにさらされたことになる。

そしてGoogleは、Surfaceの発売前にQuickOfficeを軸としたモバイルビジネス戦略を、迅速に確立しようとするにちがいない。


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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。


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