先日、日本のあるYouTubeチャンネルの動画を見た。
出演者が 人生で初めてカジノに行く、という内容だ。本人は冒頭で「賭け事なんて一度もしたことがない」「ルールすら知らない」と、はっきり言い切っている。
それなのに、その場でゲームに参加していた。
ここが、ちょっと引っかかった。ふつう、知らないゲームにいきなり混ざるのは難しい。ルールを覚えて、その場の作法を掴んで、それから参加する——という順番が要るはずだ。
なのにこの人は、説明を受けてから数分で卓に着いていた。
なぜそれが可能なのか。ゲームの“設計”として考えてみたい。
● ルーレットとバカラには、判断がほとんどない
まず、動画で遊んでいた2つのゲームを整理してみる。
【ルーレット】 ・好きな番号・色・条件にチップを置く ・ホイールが回り、ボールが投げ入れられる ・止まった場所で結果が決まる

赤か黒、偶数か奇数のような条件ベットなら配当は2倍。番号をピンポイントで当てると35倍。
ここで大事なのは、当たりやすいほど配当が低く、高配当ほど当たりにくい、という対応関係になっていること。どこに置いても、有利・不利の関係は基本的に変わらない。つまり「賢い置き方」というものが存在しない。
【バカラ】 ・「プレイヤー」「バンカー」「引き分け」から選ぶ ・両方に2枚ずつカードが配られる ・3枚目を引くかどうかはルールで自動的に決まる ・合計の下1桁が9に近いほうが勝ち
こっちはさらに徹底している。プレイヤーが決めるのは、最初にどこへ置くか、それだけ。カードを引くか引かないかという、一見「腕の見せどころ」に見える部分が、あえてルール側に移されている。
要するにこの2つは、プレイヤーの判断をできるだけ排除するように作られている。
● 学習コストがゼロだと、何が起きるか
技術が介入する余地がない、ということは、「上手い人」が存在しない、ということでもある。
これは初心者にとって、決定的に有利だ。
将棋でもポーカーでも、初心者が経験者と同じ卓に着けば一方的に負ける。だから初心者はまず練習して、ある程度戦えるようになってから参加する。参加の前に、学習コストが挟まる。
ルーレットとバカラには、それがない。
隣に何十年通っている常連がいても、赤に置くか黒に置くか、という判断において、初日の人と差がつかない。動画の出演者が数分で卓に着けたのは、そもそも 習得すべきものがなかった からだ。
ちなみに、カジノには技術が介入するゲームも当然ある。ポーカーやブラックジャックがそれで、こちらは知識と経験が結果に効いてくる。カジノ側は、学習コストの高いゲームと低いゲームを意図的に並べていて、初心者はコストの低いほうから入ればいい、という構造になっている。

● 旅行者にとって、これが何を意味するか
ここが本題だ。
旅行、とくに1泊2日みたいな短い旅で、学習に時間を割く余裕はない。
「ガイドブックを読み込んでルールを覚えて、それから行く」という手順を要求される体験は、旅程に組み込みづらい。だから旅先での“初体験”は、たいてい学習コストの低いものに限られてくる。
その点で、こういうゲームは旅行と相性がいい。
・事前準備が要らない ・説明を受けてから参加まで数分 ・経験者と同じ卓に着いても、不利にならない
動画の出演者も、この日のためにルールを予習してきたわけではない。現地で説明を受けて、そのまま参加していた。旅先の限られた時間で成立する体験として、これは効率がいいと思う。

● ただし、上達もしない
もう一点、書いておくべきことがある。
技術が介入しない、ということは、やり込んでも強くならない、ということでもある。
動画の出演者は、最初のミニゲーム以外はほぼ連敗して、最終的に手持ちがゼロになっている。本人が「最近でいちばんへこんだ」と言っていたけれど、これは腕が悪かったからではない。そもそも 腕が関係しないゲームだからだ。
だから、取り返そうとする行為に、根拠がない。「次は当てる」という感覚は、技術が介入するゲームでは意味を持つけれど、ここでは持たない。
使う金額を先に決めておくのが合理的なのは、精神論ではなくて、そういう“構造”だからだ。
● 舞台になっている施設について
動画の舞台は、ソウル・江南のCOEXにある セブンラックカジノ 江南COEX店。
韓国のカジノは基本的に外国人専用で、韓国籍の人は入場できない。日本人を含む外国人だけが入れる仕組みになっている。運営しているのは韓国の公企業だそうだ。
カジノは通常、店内の撮影が禁止されている。この回はカジノ側の提案によるタイアップで、撮影許可を得たうえで内部を公開している旨が、動画内で説明されていた。受付からフロア、テーブルでのやり取りまで通しで見られる。
▼ 入場条件 ・外国人のみ(韓国籍の方は入場不可) ・満19歳以上 ・パスポートの原本が必要(コピー不可) ・帽子・サングラスは着用不可 ・24時間・年中無休/地下鉄2号線 三成(サムスン)駅から徒歩約5分 ※内容は変更される場合があります。訪問前に公式サイトでご確認ください。
● まとめ
「初心者でも楽しめる」という言い方は宣伝文句としてよく使われるけれど、この場合はもう少し具体的で、初心者と経験者の差が生まれないようにゲームが設計されている、という話なのだと思う。
学習コストがないから、旅先の限られた時間でも成立する。同時に、上達もしないから、長く粘る理由もない。
短時間で切り上げる遊び方が“構造的に正しい”というのは、なかなか珍しい種類の娯楽ではある。
