彼女が息を引き取ってから1時間くらい

その場所で泣きながら呆然としていた。

でも、彼女との本当のお別れを考えなければならない時だった。

僕は首輪をはずしてやり、いつも彼女を洗った時に使ってたバスタオルで

彼女の好きだった食べ物や、それまで使っていた物といっしょに、

そっと包んであげた。

ふと反射的に僕は彼女の物を残しておこうと思い

「ごめんね」と謝りながら彼女の尻尾の毛を少しハサミで切り取り

ジッパーつきの袋に収めた。

そんな時に、すごく事務的な仕事が始まった。

火葬場やお墓の手配だった。

市役所のホームページを調べると市役所が運営している火葬場で焼いてくれるという話だった。

だけど、焼かれた体は火葬場にある動物たちだけの慰霊碑のなかに

いっしょに収まってしまうという話だった。

でも、日曜日で午後には火葬は終わってしまうという話で

いくらエアコンが利いてても夏場の高温多湿のなかそのままにしておくのも

かわいそうだと思い、短時間で決意した。

僕は彼女を抱きかかえて車の助手席に乗せて

お世話になった動物病院、美容院

そして最後に彼女が生まれた場所を回り

火葬場に着いた。

そこにはいかにも仕事と言わんばかりのおじさんが一人外にいて

彼女を抱えた僕を見つけたが、お互いに言葉はなかった。

そのまま受付事務所に入ると外にいたおじさんの他に

2人いて「高校野球」をテレビで見ながらとても火葬場とは

思えない盛り上がり方を見せていて

その中で僕は書類を記入し「火葬料」なんてもの支払った。

そして案内されるまま火葬場裏に行くと

小さな祭壇があり、そこにムーを置いて線香をあげ手を合わせていた。

受付してくれたおじさんに「お願いします」と一礼しながら言い

声をかけたあとに、そのおじさんは彼女を抱きかかえ窯に連れていこうとした時に

僕は感極まって「待って!」と声をかけ

ムーの額なでながら「今までほんとうにありがとう」って

もう一度、そして最後の言葉をかけて、その場を立ち去った。

うつむきながら車に乗って

泣きながら車を運転して家に戻った。




飼い犬の寿命は飼い主より短いことは

最初から覚悟していたはずだった。

それなのにこんなに想像もつかなかったくらいに

悲しいのはなぜなんだろう?

天国に行っても

今までみたいに好奇心旺盛、勇敢、元気な犬であってほしいとせつに思う。