#がん治療研究
iPSから免疫の「教育細胞」作製 京都大学、がん治療など応用期待/日本経済新聞
・加齢で縮小の胸腺→免疫力低下、がん再発の一因
・ヒトiPS細胞から多様な抗原に対応するT細胞→試験管内で胸腺再現に成功
・強力ながん再発対策や”高機能”胸腺移植に可能性

 

ref.京都大学iPS細胞研究所リリース

 

【記事の概要(所要1~2分)】
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究チームは、ヒトiPS細胞から「胸腺上皮細胞(iTEC)」を作製することに世界で初めて成功しました。胸腺は免疫の“教育機関”と呼ばれる臓器で、T細胞に「敵(ウイルスやがん細胞)を攻撃し、自分は攻撃しない」というルールを教え込む重要な役割を担います。しかし胸腺は加齢とともに縮小し、免疫力低下やがん再発の一因になることが知られています。

今回の研究では、iPS細胞にビタミンAの代謝産物「レチノイン酸」を加えることで、胸腺上皮細胞のマスター遺伝子が発現し、実際の胸腺と同様に皮質型・髄質型を含む多様な細胞集団へと分化しました。さらに、このiTECをT細胞の前駆細胞と組み合わせてオルガノイド(立体的な小型組織)を作製したところ、多様な抗原に対応可能な「ナイーブT細胞」へと分化できることが確認されました。これは“試験管の中で胸腺を再現する”画期的な成果です。

従来のがん免疫療法(例:CAR-T細胞療法)は、がん細胞が抗原を変化させて免疫から逃れる「免疫逃避」が課題でした。しかし、胸腺機能を体外で再構築できれば、より多様性に富むT細胞を再生し、がん細胞の変化にも対応できる可能性があります。これは、がん再発リスクを下げる新たな治療法の道を開くと期待されています。

さらに、この技術は先天的に胸腺を持たない「無胸腺症」や、治療や加齢で免疫が弱った人に対しても、免疫システムを再建する手段となり得ます。教授は「胸腺を体外で作り、そこから得られた多様なT細胞を移植する」未来像を描いており、がん患者にとっても大きな希望となる成果です。

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もちろん、試験管での実験段階ですからこれからまだまだ茨の道はあります。
しかしこれ、個人的には、未来のノーベル賞候補ほどのインパクトを感じる成果だと思っています。

老化によって胸腺が減少しますが、その老化の原因が胸腺の減少とも考えられます。
それがもし、移植によって再現するばかりか、高機能化した胸腺が備われば、あらゆる病気や感染症などに対応できる可能性が出てきます。

実用化をぼんやりと考える時、次の大きなステップは、どのようにして実験室から臨床に移行するか、です。

そのために確保しなければならないのは、まずは再現性です。
偶然出来るものではなく、何度も再現できるものではなくては使いものになりません。

そして、安全性の確保。これも大きなハードルです。
免疫暴走の危険性をどう抑えるか。
また、iPS細胞の欠点とも言える、細胞のがん化もクリアしなければなりません。
特にこの胸腺移植によって免疫の多様性が生まれますが、これがどう働くのかを長期で観察しなければならないでしょう。

あとは、大量に培養出来るかという技術的問題。
これ、自己細胞からでやるか、他の人の細胞からやるのかでまた変わってきますよね。
そもそもどうやって胸腺を移植するよ、という外科的問題も残っています。

こういう、再現性、安全性、培養・移植など技術の問題がクリアされた上で、やっと臨床応用へのステップに進めるものと考えます。

道のりは、正直、長いと言わざるを得ませんが、新しく画期的な治療法として、また、iPSを応援する気持ちから、とても期待しています。