運動と食事が再発リスクを下げる-ステージⅢ大腸がん研究からの示唆-ダナ・ファーバーがん研究所/ecancer
ASCO2025で発表された論文から、注目すべきものをピックアップしてみました。
運動と食事が再発リスクを下げる-ステージⅢ大腸がん研究からの示唆-ダナ・ファーバーがん研究所/ecancer
・抗炎症食と高頻度運動の組み合わせで死亡リスクが最大63%低下
ステージⅢ結腸がん患者で、「炎症を引き起こす食事」が死亡リスクの悪化と関連しており、観察研究の結果がその関連性を示しています。
この研究は、教育付きがん学会(ASCO)2025年年次総会で発表されました。研究対象は、米国ダナ・ファーバーがん研究所らが実施したコホート研究。術後の結腸がん患者の「食事パターン」と「生存率」との関係に焦点を当てています。
●研究背景と目的
「がん治療後に再発リスクをできるだけ下げて、生存率を改善するには、どんな食事をすればよいか?」という質問は非常に多いです。しかし、診断前の大腸がんリスクに関する研究は多い一方で、診断後の生活習慣(特に食事)が治療結果にどのように作用するかは不明だったため、本研究に着目されました。
●研究の対象と方法
第三相臨床試験(CALGB/SWOG 80702)参加者約2,500人のうち、1,625人を対象にした追跡調査。
対象患者:ステージⅢの結腸がんで、手術後に化学療法を受けた患者。平均年齢は約61歳。
食事習慣の評価:食事内容を、18種類の食品群を元に算出される「EDIP(Empirical Dietary Inflammatory Pattern)」スコアで評価。高スコアは“炎症を促す食事”、低スコアは“炎症を抑える食事”を表します。
調査のタイミング:治療グループに割り当てられてから6週間後と、14-16か月後に、食事と運動の習慣をアンケートで記録。
●主な結果(生存率への影響)
◯食事の影響
最も炎症性の高い食事をしていた患者(EDIP上位20%):
下位20%(抗炎症食を多くとっていた患者)と比較して、死亡リスクは87%も高い結果でした(ハザード比 1.87)。
無病生存期間(再発や進行がない期間)には有意な差は認められませんでした。
◯運動習慣の影響
週に9MET時間以上(例:速歩を1時間×3回、またはジョギング1時間弱)運動していた人と組み合わせて分析。
抗炎症食+高頻度運動グループでは、死亡リスクが63%も低下するという、最も良好な生存結果が得られました。
抗炎症薬使用の有無やアスピリン使用、治療レジメン(3か月vs6か月)の違いは、この関係には影響しないことが確認されています。
●医師のコメント
Sara Char医師(研究発表者):
「炎症を抑える食事と運動を組み合わせることで、ステージⅢの結腸がんの生存率が大きく改善する可能性を示した」と強調。
Julie R. Gralow医師(ASCOチーフメディカルオフィサー):
「医師自身が患者に対して、いわば「良い食事と運動を処方」すべき時代が来た」とコメント。生活習慣そのものが治療の一環となるという流れへの期待がうかがえる。
●今後の展望
より若年での発症や転移がん、他のがんタイプにこの結果が適用できるか検討予定。
食事や運動が体にどのように作用して、生存率に繋がるのか、その生物学的メカニズムを解明する研究も進行中です。
【まとめ】
ステージⅢまで進行した結腸がんでも、食事と運動という生活習慣の改善が、生存に大きな影響をもたらす可能性があることが科学的に示されました。
特に、「野菜中心で砂糖や加工肉を避ける」「週に適度な運動を継続する」のは治療段階でも十分に意味のある行動と言えます。
主治医と相談の上、サポーティブな生活習慣を構築することは、患者さんにとって“自分でできる治療の一歩”とも言えるのではないでしょうか。