配信:日経メディカル 様

【抜粋】

今年2月に前立腺癌で亡くなった元祖御三家のひとりがオーストラリアに渡航して受けていた日本未承認の“最先端治療”、転移に対する177Lu-PSMA-617による「PSMA治療」について、横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科診療教授の上村博司氏が次のように話している。

 

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I-O薬(がん免疫療法薬)や他の薬剤を使っても、内臓転移や骨転移に効かないところがあり、効かない癌細胞のクローンが別の部位に転移してしまうこともあるため、既存の薬剤だけではなかなか難しいと思っています。

現在、治験が始まっている前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的としたルテシウム(Lu-177)PSMA治療やアクチニウムPSMA治療が大きなウェーブになるのではないかと考えています。

しかし日本は放射性薬剤の開発が非常に遅れています。あまりにも慎重過ぎて規制が多いため、治験がなかなか進まないのです。将来的には177Lu-PSMA-617を検証した第2相臨床試験、VISION試験のブリッジングという形になるかもしれませんが、(規制当局には)日本人のデータは日本で作るという考えが強いようです。PSMA治療を受けるためにオーストラリアやドイツまで行っている人もいます。今までの薬剤とは違う作用機序がありますので、早く結果を出し、日本で保険収載されることを願っています。

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VISION試験「177Lu-PSMA-617+標準治療が既治療PSMA陽性mCRPC患者のrPFSとOSを有意に延長【ASCO 2021】」

 

 

 

また、最近日経メディカルで特集したα線内用療法の記事の中でも触れられている(今、話題のα線内用療法ってどんなもの?)。記事からそのまま引用すると、
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2016年には、ホルモン療法や化学療法を繰り返し行ったのに進行してしまった去勢抵抗性前立腺癌患者に対し、前立腺特異的膜抗原(PSMA)を認識する化合物をα線核種であるアクチニウム-225(225Ac)で標識した225Ac-PSMA-617を投与したところ、高い効果を示し、PSA正常値まで回復させることが報告された(J Nucl Med 2016; 57:1941–4)。

さらにこの報告では、β線を放出する177Luで標識した177Lu-PSMA-617で治療しても効果が得られなかった患者に対しても225Ac-PSMA-617は高い効果を示した(新たな癌治療、α線内用療法を知る (導入編) )。

 

さらに他人のふんどしを借りると、アクチニウム-225に関しては、日本でも製造体制が確立されたようだ(国内でアクチニウム-225の治験用製造体制が確立)。

 

 


最近、ドラッグラグ(新薬承認の遅れ)に関する論説を目にする機会が増えているような気がする(例えば日本経済新聞の記事:がん新薬、いつまで待てば 国民皆保険に薬価ジレンマ)。

日本製薬工業協会のシンクタンク「医薬産業政策研究所」が発行する「政策研ニュース」No.63(2021年7月発行)によれば、2010年から2020年に日米欧各極で新有効成分含有医薬品(NME:New Molecular Entity)として承認された品目について、欧米NME 数に対する国内未承認薬数の割合を算出し経時変化を追った結果、2014年から2016年調査時点にかけて国内未承認薬の割合は減少(65%から56%へ)していたが、2016年調査時点を底として国内未承認薬の割合が増加し、2020年末時点では直近5年の欧米NME 数の72%が国内未承認薬であった。

ドラッグラグには、日本で発売されるまでの期間が他の国よりも長いという「ラグ(遅延)」と、他の国では発売されているのに日本では発売されないという「未承認薬」の問題がある。

特に問題なのは後者で、日本での開発情報のない品目をさらに分析したところ、38%は欧米でのオーファン指定品目であり、市場規模や臨床試験の実施可能性の問題により今後国内単独で臨床開発を開始する割合は低いと考えられ、多くが未認薬として残っていく可能性があるとする。

また日本での開発情報のない品目は米国のみで承認されているものの割合が高く、日本法人を持たない海外企業により欧米で開発された新規医薬品が多かった。新興バイオ医薬品企業の多くは米国発祥で日本法人を持たず、米国でのみ開発・販売する割合が高いと考えられる。

これらの問題を解決するために一番重要なことは、治験や承認への支援策や規制緩和であることは、コロナ禍での治療薬やワクチンの承認に際して多くの人が認識したことだろう。

しかしながら今、声高に聞こえてくるのは、相次ぐ薬価の切り下げにより日本のマーケットには魅力がなく、開発への意欲が沸かないという企業トップの発言ばかりだ。
 

 

 

国立がん研究センターが3月26日に公表した「患者さんが亡くなる前に利用した医療や療養生活に関する実態調査」によると、2017年と2018年にがんで死亡した者の遺族を対象に行った調査で、患者は痛みが少なく過ごせたと回答した割合は47.2%、からだの苦痛が少なく過ごせたと回答した割合は41.5%だったという。

患者が死亡前に強い痛みを感じていたと回答した割合は28.7%で、痛みの理由として最も多かったのは、痛みに対して医療者は何らかの対処をしたが不十分であったからだった。

患者の苦痛に対して医療者は良く対応をしていたと回答した割合は82.4%だった。

また、がん患者の人生の最終段階の療養生活の状況は、より症状の重い患者・家族はがん診療連携拠点病院を含む病院の利用を選択し、症状が比較的穏やかで高齢の患者・家族は介護施設の利用を選択していた。

報告書は、「医療者は、基本的な対応だけでは十分に症状を緩和することが難しい複雑な場合などに、対応できるようにすることが必要です」謙虚だ。

薬剤開発にせよケアにせよ、その人一人ひとりに応じた細かな積み上げが必要とされる時代になってきたのだなと思わせられたこのごろであった。

 

社会への問題提起がジャーナリストの本分であるとすると、こちらの記事は、まさしくそれだと思いました。シニカルで辛辣。

 

放射線治療の効果を高める「KORTUC」という薬剤があります。

 

局所進行乳がん・再発乳がんに対して45%が部分緩解、55%で進行抑止、という結果があるほど、その効果は期待出来るものです。

こちらの薬剤を開発したのは日本の方です。

ところが、日本の製薬会社は臨床試験に手を挙げなかったようです。その理由は、この薬剤のコストにあります。

 

実は、KORTUCは、オキシドールとヒアルロン酸から出来ています。極めて安価ということです。

意地悪な言い方をすると「いくら効いても、儲けが無ければ開発出来ない」と言うわけです。

結局、英国にて臨床試験が実施されたのですが、どうなったのでしょうかね。ネットでは、なかなか結果が見つかりませんが・・・・

 

私ごときが「医療、医薬こうあるべき」を語るのは、分不相応であります。ただ、将来がんに罹患する可能性50%の一市民として思うことは色々とありますね。

 

こちらの記事、私には「一市民、声を上げよ」にも聞こえましたね。一市民は、愚かしい”謙虚”を、捨てるべきなのかも知れません。