本記事はこちら↓ 【日経メディカル 様】
がん患者さんのサポートをされている「楽患ねっと」さんの活動内容です。興味深いアプローチをされています。
患者さんの思考を一旦分解し、再度組みなおすような感じ。
フレームワークですね。
言い方を変えれば、感情を文章化されていると言えます。漠然なものを具体的なものへ。コンサルですね。
セカンドオピニオンの結果どうなったのか、知りたいところです。
【抜粋】
今回取り上げるのは、
「東京の専門病院を、セカンドオピニオンとしてではなく、初診として受診したい」という、膵癌を患うWさんからの相談です。
Wさんは60歳代の男性。膵癌と告知された時には、既に肺、肝臓、腹膜、リンパ節に多発転移がみられました。家族は60歳代の妻と40歳代の息子で、3人暮らしでした。
Wさんは地方都市に住んでおられるため、「東京までの移動は体力的に厳しくありませんか?」と聞いたところ、運転は息子がしてくれているし、これまでも頻繁に東京には車で来ているから問題ないとのことでした。
Wさんは年の初めに地元の病院で癌と診断され、「手術はできない。通院して飲み薬か点滴の抗癌薬、どちらかよい方を選択してください。どちらにしても緩和ケアは並行して行っていきます」と主治医に言われました。「放射線治療は効果がないが、希望すれば放射線科の外来を紹介します」とも言われました。主治医は話しやすい人で、希望があれば紹介状はすぐに書いてくれるとのことでした。
Wさんからの相談は、次のようなものでした。
「主治医はすぐに紹介状は書いてくれると言っていましたが、
免疫療法や先進医療(陽子線治療)についての情報を病院では一切教えてくれません。
自分で調べてもどこの病院で何が受けられるのか、どの治療を選んでよいのかよく分かりません。こうした治療法について、なぜ自分で調べなくてはいけないのでしょうか。プロである主治医が、しかるべきところを教えてくれて紹介してくれるのが当然のことだと思うのですが、不親切で憤りを感じます。
毎日インターネットとにらめっこをしていて、眠りも不十分です」
「陽子線治療をしてくれる東京のAがんセンターは、地方の病院とは設備も全く違うと思います。
初めからこの病院にかかっていれば、陽子線治療について自分で調べる必要もなかったでしょうし、全ての科の医師が集まって私の治療を検討してくれるはずです。できれば診断から、もう一度こうした最先端の病院での治療を受けたいのです。そうすれば、違った治療の選択肢が出てくるかもしれません。主治医は紹介状を書いてくれると言っていましたが、
先方の病院に初診と言って受診しても大丈夫でしょうか」
「私は挑戦しないとだめなのではないかと思っているんです。できることがあったのに、何もしなかったなんて後悔はしたくないんです。仕事は大分前に辞めて、趣味の旅行にも家族でたくさん行きました。心残りはありません。後は、やれる治療を積極的に受けて生きたいのです。抗癌薬はもちろんやるつもりです。ただ、その前に
セカンドオピニオンではなく、初診からAがんセンターを受けたいのですが、大丈夫でしょうか。他にお勧めの治療法はありませんか」
私たち(楽患ねっと)は、「患者が納得のいく治療や療養方法を決めるための推奨手順」を考案し、意思決定支援に活用しています。病気を知ること、生活の変化を知ること、自分を知ること、自分はどうしたいかを知ること、そして、実行です。
この意思決定の手順は、大きく(1)知識、(2)価値観、(3)手段、(4)感情──の4つに分類されています。目の前の患者や家族は、この4つの分類のどこに課題を持っているのかを意識しながら傾聴します。
1. 課題を探る
まずは、Wさんの相談内容を図1の4つの分類に当てはめて考えてみました。
(1)知識:
・効果が期待できる治療として抗癌薬治療を勧められ、経口か点滴かを選択するように言われている。
・放射線治療は効果がないと言われている。
・東京のAがんセンターでは陽子線治療を提供している。
(2)価値観:
・治療に挑戦して生きていきたい。
・診断から最先端の病院で治療を受けたい。
・人生に心残りはない。
(3)手段:
・初診からAがんセンターを受診したい。
(4)感情:
・何も治療をしなければ後悔することになるだろう。
・あらゆる治療の可能性を探りたい。
Wさんは、インターネットを駆使して大量の情報を得ていました。また、主治医ともよく話し合っていましたが、「初診から他病院を受診したい」ということだけは伝えていませんでした。
ここで、Wさんの課題が2点見えてきました。
1つ目の課題は、Wさんの言う「治療」が何を意味するのかが曖昧であるという点。
2つ目の課題は、Wさんの東京の病院に対する「期待」が非常に大きいという点でした。
2. 支援の方法
この2点の課題への支援内容は、次の通りです。
まず、地方と東京、どちらも基本的な医療体制は同じであることを整理しました。
(1)診療拠点病院であれば標準治療を行う、
(2)科ごとに診療を行っており、全ての外来患者に一から全科が関わって治療法を検討する体制ではない、
(3)標準治療以外の治療法は、こちらが希望しない限り積極的には医師から提示されない──
ということを伝えました。
次に、現在の主治医に関する情報を整理しました。
主治医は、
(1)積極的に他科への受診を促し、そのメリット・デメリットについて説明している、
(2)セカンドオピニオンについても快く送り出している、
(3)質問すれば、標準治療以外の治療について、主治医の知り得る範囲内でのメリット・デメリットについて説明し見解を述べている──といった点が確認できました。
このことから、Wさんが地方にいるが故に東京の病院よりもデメリットを被っているという根拠は見当たりませんでした。
それでもWさんは、Aがんセンターを初診として受診することにこだわりました。その理由は何だったのでしょうか。私は、そこに焦点を絞って会話を進めました。
すると、「自分はもしかしたら癌ではないのかもしれない」「他の病院であれば間違いに気付いてくれるかもしれない」という思いがあったことを知りました。
ご家族もその言葉には驚いていたようですが、奇跡にかけたいというWさんの気持ちには寄り添ってあげたいという気持ちを強く持っていました。
そこで私は、実際に初診を受けるとした際のメリット・デメリットについて整理していくことにしました。
メリットは、(1)改めて診断してもらうことができる、(2)Wさんもそれで納得して治療に向かうことができる──という2点です。
一方のデメリットは、時間がないことです。Wさんの癌は見つかった際にはステージが進んでおり、すぐにでも抗癌薬の治療を受ける必要がありました。「並行して緩和ケアを行っていきましょう」という医師の言葉が何を意味するのかを改めて話し合いました。
すると、Wさんは「抗癌薬治療は受けても受けなくてもよいと言われたこともある」と話し始めました。これは、Wさんの癌の進行が非常に厳しいものであることを物語っているエピソードでした。
Wさん自身も、話しながら治療を受ける時期を先送りすることが得策ではないことを徐々に実感していったようです。「病名が分かるまでに既に数カ月がたっており、これから初診を受けると治療にたどりつくまでにまた同じ時間をかけることになる、それは得策ではない」と思うようになりました。
ただし、東京の病院への期待は非常に大きく、陽子線治療の適応があるかどうかだけでも検討したいとの思いがありました。
一緒にいらしたご家族も、「お父さんが受けたい治療を応援したい。遠方でも、お金がかかっても実現したい」という思いでした。ご家族にとってWさんはかけがえのない人。その人をなくしたくない、チャレンジしたい、という家族が一丸となった思いが伝わってきました。
そこで私は、もう一度、標準治療について説明しました。そして、「抗癌薬治療をするという選択自体が、今のWさんの状況ではチャレンジングなことである」ということも伝えました。「目の前の治療に専念すること、それが今、一番早くできるチャレンジである」と伝えたのです。Wさんにとって、それは目からうろこの考えだったようです。
こうして、Wさんは今すぐに自分にできるベストの治療は抗癌薬治療であるため、抗癌薬治療を先延ばししないように配慮して、陽子線治療を受けられるかどうかを検討する。つまり、Aがんセンターでセカンドオピニオンを受けることになりました。