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2021.11.24

 

治療を進める上でお金は大事です。公的支援をしっかり使い、返ってくるものは返してもらうようにしたいところです。

 

【抜粋】日本人の死因第1位であるがん。もし、がんに罹患した場合に直面するのは、病気や治療による身体的な負担ばかりではない。治療費の問題も重くのしかかる。

 そもそもがんの治療にはいくらかかるのか。自身も乳がんを患った経験をもつファイナンシャルプランナー(FP)の黒田尚子氏が語る。

 

「がんでかかる治療費の目安は年間100万円くらいとお伝えしています。私ががんになってから12年間でかかった治療関連のお金は、医療費や乳房再建費用、交通費や日用品の購入などを合わせて約365万円でした」

 

特にコロナによる受診控えでがん検診を受ける人が減っており、今後は早期発見が叶わず、がんが進行した状態で発見される人が増加すると懸念されている。

 進行がんは早期発見に比べて長い入院期間や高額な治療が必要になることがあり、トータルの治療費は大きな差が生じる。別掲の図は3大がん(胃がん、肺がん、大腸がん)のステージ1とステージ4にかかる平均的な治療費(1年目)の比較だ。

 

これを見ると、例えば胃がんのステージ1なら内視鏡治療か手術で約40万〜130万円がかかるところ、ステージ4の抗がん剤治療では約260万円と、倍以上の金額がかかることがわかる。

 

治療費を算出した「がん治療費.com」を運営するエース・フォースの担当者が解説する。

「治療ガイドラインをもとにステージごとの代表的な治療法を選び、厚生労働省が定める診療報酬から算出しました。治療に際しての検査費用などは含みますが、副作用対策のための薬剤費などは含まれていません」

 

ここで算出された治療費はあくまでも「総額」だ。実際の自己負担額は患者が加入する公的保険によって異なり、年齢と所得で1〜3割負担となる。

 

さらに、患者は医療費の負担を軽減する公的制度を利用できる。FPの加藤梨里氏(マネーステップオフィス代表取締役)が解説する。

 

「主に『高額療養費制度』と『医療費控除』の2つが利用できます。高額療養費は診療を受けた月ごとに自己負担限度額を定めたもので、加入する健康保険に申請することで、限度額を超えた医療費が戻ってきます。

 

医療費控除は、年間の医療費の自己負担が一定額を超えた時に、翌年の確定申告を経て所得税の計算上で所得控除を受けられるものです」

 

では具体的に治療費はいくら戻るのか。年収500万円、60代男性Aさんのケースで、申請や手続きの流れを図解した(別掲図)。加藤氏が図に沿って解説する。

 

「まずAさんが払った治療費は1月の手術で30万円、2月と3月の抗がん剤治療でそれぞれ15万円、合計60万円でした。それが高額療養費制度を利用することで自己負担限度額は合計25万2290円となり、差し引き34万7710円が還付されます。

 

さらに翌年の確定申告時に医療費控除を利用すると1万5229円が所得税から軽減され、60万円だった窓口での負担額は最終的に約23万7000円に抑えられます」

 申請すればかなりの医療費が戻ってくるが、高額療養費では“月またぎ”に注意したい。

「自己負担額の上限は1か月単位で計算される点に注意が必要です。例えば、先程と同じく年収500万円の人が30日間の抗がん剤治療を行なって自己負担額が15万円のケースです。

 もし治療が2か月にまたがり15日間ずつだった場合、月毎の自己負担額は7万5000円ずつとなり、ひと月の上限(8万2430円)に達しないため還付がない恐れがあります」(加藤氏)

 また、病院窓口で負担した医療費のすべてが申請対象になるわけではない。

「がんの治療では高度な『先進医療』を選択することがありますが、技術料部分は保険適用外です。また、通常の大部屋ではなく人数の少ない部屋(1〜4人)に入院した場合は1日数千円の『差額ベッド代』を払わなければなりません。

 そのほか、入院中の食事代の一部や雑費も全額自己負担です。通院時の交通費や診断書の発行、セカンドオピニオンの費用なども含め、全額自己負担となるがんの治療費は思いのほか多いのが実情です」(黒田氏)

 

2014年に膀胱がんと診断されたボクシング元世界チャンピオンの竹原慎二氏(49)は、がん治療費についてこう振り返る。

お金はとにかくかかりました。最初は抗がん剤治療を受け、その後、11時間に及ぶ全摘手術を『ダヴィンチ』というロボット手術で行ないました。当時は(手術を受けた)東大病院でも2例目の最先端治療で保険適用外だったため、手術だけで250万円。2〜3か月ほど入院して、トータルで600万円はかかりました。妻が貯金をしてくれていたので助かりましたが、少しでも足しになればと、愛車のベンツSクラスを売却しました」

 

昨年3月にがんの診断を受け、『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社刊)を上梓したジャーナリストの金田信一郎氏(会員誌『Voice of Souls』代表)もこう言う。

「コロナ禍のがん治療で重かった負担は、通院時のタクシー代です。平常時なら電車で通えるところを、感染予防のために自宅から病院までタクシーを利用していた。私の場合は東京から千葉県の柏市まで通っていたので往復で4万円かかりました。妻に自家用車で送ってもらうこともありましたが、負担をかけてしまったことも辛かったです。

 放射線治療の際は1か月半にわたって毎日通うので病院近くのホテルに泊まりました。こちらは逆にコロナ禍で値崩れしていて1泊5000円でしたが、長く続けば大きな額になる。交通費や宿泊費のことも考えておかなければと痛感しました」

 いざという時の負担を減らすために、“武器”となる正しい知識を身につけておきたい。