オーダーメイドがんワクチンやゲノム編集まで! 「mRNA医薬」開発はここまで進んでいた(2021年11月16日)|BIGLOBEニュース
BIGLOBEニュース2021.11.16
【抜粋】
——感染症のほかに応用できる治療はありますか?
「現在、ヒトでの臨床試験が最も盛んに行なわれているのは『がんワクチン』です。これは予防目的ではなく、すでに発症した人への免疫治療に使われます。対象となるがんは主に皮膚がんの一種である悪性黒色腫、前立腺がん、脳腫瘍などです。
がんは、無限に増殖するがん細胞が正常細胞を駆逐してヒトを衰弱死に追いやります。がん細胞はヒトの体にとって異物なので、本来なら免疫細胞が排除するはずですが、がん細胞はこの免疫細胞の攻撃を阻止する働きを持っています。
この働きを抑えることに成功したのが、京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)教授が18年にノーベル生理学・医学賞を受賞した研究を基に開発された、『免疫チェックポイント阻害薬』でした。
一方、mRNAのがんワクチンは、がん細胞を攻撃する免疫細胞を増やします。mRNAを投与することで、がん細胞の表面に特有なタンパク質が体内でつくられ、それに免疫が反応していく。この『訓練』により、狙ったがん細胞のみを攻撃する免疫細胞を増やすという仕組みです」
——基本的には新型コロナワクチンと同じ仕組みですね。
「そうです。ただし、がん細胞は長年かかって生成され、その組織は均一でなく多様なため、特有のタンパク質が見つからないこともあります。その場合は、個々の患者のがん細胞を採取して遺伝子解析をし、がんを起こす遺伝子変異と、それに伴ってできるタンパク質を見つけ出し、対応するmRNAを投与して免疫細胞の攻撃力を高める手法も研究されています」
——いわば"オーダーメイド"のがんワクチンですね。その実現は近いんですか?
「現時点では、多くは初期段階です。初のがんワクチン実現には、今後5〜10年はかかると私はみています。また、先述したように、がん細胞には免疫細胞を阻止する機能があるため、ワクチンで免疫細胞を強化しただけでは治療効果が十分とはいえません。
そのため、臨床試験の多くは、『免疫チェックポイント阻害薬』を併用しながら、ワクチンで強化した免疫細胞ががん細胞を攻撃するという二段構えで実施されています」