揃って楽屋に戻った翔と雅紀を
待ち構えていたのは、意外にも
腕組をして立つ育美の姿だった。
「…げっ、育!」
「ゲッ!じゃないでしょ、二人して
どこウロウロしてたのよ」
「竹コース、マジ使えねぇ…」
「何よ、竹コースって」
即座に聞き返した育美の声に
背後で和也が吹き出している。
それを横目で睨んでいた翔へと
育美はプレスした新しいシャツを
広げながら差し出した。
「…よかった、メイク終わってて
ついでにこれに着替えて?」
「それ、今日の衣装じゃなくね?」
「ちょっと挨拶に行きたいのよ」
育美が短くそう告げると
それまで黙っていた雅紀が急に
大きな声を上げた。
「うわあっ、でたぁ! 」
「雅紀 ?!」
「育ちゃん、それ明日にしてっ!」
「はぁ?」
「おれ、今夜が勝負だから!
今から翔ちゃんが電話して
とれてもとれなくっても
今夜が勝負なんだからっ!」
「…何の勝負だか知らないけど
夜までかかる訳ないでしょ?
すぐに戻って来るわよ」
「だめだめだめだめだめーっ !」
言うなり、翔を強く引いた雅紀に
育美も負けじと引っ張り返す。
間の翔の手からシャツが落ちても
どちらも怯むことはなかった。
「ちょっと! 何なのよ雅紀!」
「わーっわーっわーっ!」
「…お腹痛いとか? まさか床に
落っことしたものとか食べ…」
「…って食うかよ! そんなもん!」
育美の言いかけた言葉に
先に翔の方が素早く反応して
雅紀の傍へと身を寄せる。
はぁはぁと息を切らしている姿に
翔は小さな声でそっと問い掛けた。
「…雅紀? 急にどした?」
「翔ちゃん、いっちゃやだ」
「挨拶だけらしいし、すぐ戻るよ?」
「そじゃなくて…」
翔がこれから連れられて行く先は
相手役の女優の所かもしれない。
そう思った途端、手放したばかりの
様々な負の感情が再び貼りつくようで
途端に息苦しくなっていく。
その心情が表情にも出ていたのか
翔は育美の方に向き直った。
「…誰に挨拶か知んねーけどさ
雅紀も一緒じゃダメなわけ?」
「翔の個人の仕事なのよ」
「何の?」
「だからそれも今から話すわ」
…とはいえ、さすがに育美の目にも
雅紀の様子が妙だと映ったのだろう。
「はぁー」と大げさにため息をつき
くしゃくしゃとその髪をかき混ぜた。
「…困った子ね、どうしたのよ
南条に甘やかされ過ぎじゃない?」
「ちが…」
「ま、そんなに一緒に行きたいのなら
雅紀もついて来てもいいけど?」
「ついてきたいんじゃないよ!
翔ちゃんにいってほしくないの」
「何寝ぼけたこと言ってんだか…」
「…おねがい、育ちゃん
今日だけはみのがして!」
「何なの? 大げさな子ねぇ
たかだか挨拶じゃないの」
「だからっ、だからそれを
今日じゃなくて明日に…」
一歩も退く様子のない雅紀の姿を
怪訝そうに眺めていた育美は
しばらく思案してから口を開いた。
「…雅紀がそんなに言うなら
考えてあげなくもないけど?」
「ほんとにっ?」
「ただし、ひとつ条件があるわ」
「なになになにっ?」
「…今日は森園さんもこの局に
お仕事で入っているらしいの
後でちゃんと挨拶してきて?」
「え…」
育美の言葉に雅紀が固まる前に
翔の方が即座に顔色を変えた。
傍で見物を決め込んでいた
和也の方を急ぎ振り返る。
「…ニノ!」
「はぁい?」
「雅紀見てて、こっから出すな」
「わーお、監禁プレイってやつ?」
「竹コース分、挽回しろって」
「お代まだ頂いてませんけど?」
「出来高制だっつーの!」
「はいはぁ~い」
クスクスと笑い続けている和也に
雅紀の身を預けると、翔はそのまま
あっさりと背を向けた。
「…翔ちゃんっ!」
どこか悲痛な雅紀の声にも応じない
翔の硬い表情を見ながら
育美はもう一度ため息をつく。
「…何なのよ、 何がしたいのよ?
訳のわかんない子達ねぇ…」
「うっさい、挨拶行きゃいんだろ!」
「だから雅紀は雅紀で森園さんに…」
「ついて来ねーからチャラだし!」
「…やだもう牛乳でも飲んだら?
カリカリしちゃって可愛くない~」
そう言いながら簡単に翔の髪を整え
育美はドアの方へと促した。
「…何だよ着替えんじゃねーの?」
「時間がないわ、そのかわりに
とびっきりの笑顔でお願いね」
「誰が笑うか!」
「じゃあ雅紀を森園さんに…」
「笑えばいーんだろ笑えばっ!」
ドカドカと乱雑に足音を立てる翔と
育美が連れ立って部屋を出れば
急に部屋の中は静まり返る。
たちまち不安げな表情を浮かべた
雅紀の背を抱き、和也は囁いた。
「…翔ちゃん、例の美容師には
意地でも会わせたくないってさ」
「………」
「すっごい独占欲じゃない?
愛されちゃってまぁ~」
「………」
「あら、素敵なシャツお召しだけど
どこのブランドなのかしらぁ?」
「………」
「もしや、ショウサクライ?」
「…うるさい」
「えっろいカッコしてる恋人は
自分のシャツで隠しますって?」
「…ニノまじでうっさい!」
「見てるこっちが恥ずかしっつうの
ホント愛されちゃってまぁ~」
「うるさいっつってんだろ!」
「着てるうちになで肩になるかもー」
「なるかよ、ばかっ!」
売り言葉に買い言葉で応じるうち
和也の望んだ通り、雅紀がいつもの
勢いを取り戻していく。
それでも、散々からかわれて
すっかりご機嫌を損ねたようだ。
これ見よがしに「べー」と舌を出すと
さっさと智の隣に移動してしまう。
子どもじみた動作に苦笑しつつも
先ほどの雅紀の言葉を反芻する。
翔が電話して…と口走っていたのは
多分ホテルの部屋の予約か何かだ。
そう聞いても全くピンと来ない
育美の鈍感さに感謝するしかなく
これが南条あたりなら、とっくに
今夜の逢瀬を見抜いていただろう。
隣にいた翔が慌てなかったのは
雅紀が口を滑らせたことにすら
気づかぬくらい舞い上がって
うわの空だったという事か。
(ふーん、いよいよですか…)
そう思い当たっても、不思議なほど
和也の中に動揺の波はなかった。
願わくば、あともう少しだけ
同じ場所をぐるぐると回り続ける
二人の姿を眺めていたい気もするが
翔の本気も忍耐も思い知った今は
それもひどく酷なように思える。
自分の半身のような大切な存在を
翔に託す時が来たのだろう。
淡く柔らかなピンク色に身を包んだ
花束のような君をあの人の元へ。
「…は?」
どうやら考え込んでいたらしく
智が自分に向け何やらパクパクと
口を動かしている姿に気づいた。
おそらく「大丈夫だから」とでも
伝えようとしているのだろうが
あまりの長さに読み取れない。
「…わかるかっての」
小声で応じて眉根を寄せると
智はいたずらな笑顔を浮かべ
さらにパクパクと口を動かす。
読唇術のプロでもなければ
およそ理解不能な唇の動きに
それならこちらも応戦するかと
和也も無音で言葉を送る。
「今夜、いよいよみたい」
どうせ伝わるはずはないと
投げやりにつぶやいたのに
「マジか!」と智は声を上げると
わしわしと雅紀の髪をかき混ぜる。
「…よかったなぁ、相葉ちゃん!」
我が事のように嬉しそうに笑い
雅紀の頭を抱きしめる智の姿を
同じく「マジか…」とつぶやきつつ
和也は半信半疑で眺めていた。
自分の口の動きを何と読んで
あんなに喜んでいるのか不明だが
智なら正確に内容を把握する
ミラクルが起きても不思議ではない。
「わわわ、なにきゅうに…」
智の行動にとまどっているらしい
雅紀の横に体を押し込ませ
和也も同じようにその髪を混ぜる。
ひとつだけ、確かなことといえば
ここにも一人、翔と雅紀の恋を
見守る存在がいることだろう。
( どうか幸せな夜を君に )
口には出せないからこうして
ふざけるしかないのだけれど
その想いをまるで見透かすように
智の腕が伸び、和也の頭を撫でた。
~ つづく ~
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・
こんばんは、micaです。
こちらのページをご覧くださり
どうもありがとうございます。
4月に入り新年度スタートですね。
私事ながら子も中3となりまして
前回の夜会は、当時14才の翔さんを
現在14才のムスメが見るという
不思議な構図を迎えた我が家。
「ちっちゃ!ちっちゃすぎる!」と
14才翔さんに爆笑するムスメに
スモールライト当てたくなった母。
失礼だな、謝れよ!
…そんな失礼さは母からの遺伝か
親は親で失礼なブログを更新。
今回分、アメさんからのオススメ
#ハッシュタグはなぜか…
「#智の腕」
何だか「忍びの国」的ノリですが
うち、櫻葉専門なんすよ…
世間的に今、さとっさんの腕が
注目を集めているとも思えず
最後の最後に一回使ったワード
オススメするあたり、アメさんの
「どーでもいい」がもろ出とる。
他にも「#竹コース」「#和也」と
見事なまでの的外れっぷりに
己の未熟さを思い知るばかり…
いったいどんだけ書いたら
櫻葉だって認めてもらえるのか
どうにもズレまくりの内容に
おつき合いくださったお方
今夜もありがとうございました
mica