Yさん >

Mさん、こんにちは。


10年も前にイタリアでベストセラーになった本で、「私は拒食症だった」という装丁の立派な本があります。
当時、まだ、摂食障害という言葉がなかったころ患者自身が書いた本ということでベストセラーになりました。



このイタリア人女性は実際は過食症でした。
いつも、頭の中が食べ物のことで一杯で、上流社会の人たちと優雅に会食している間いつどこで吐こうか、そのことばかり考えていました。
食べても嘔吐するので拒食症のように痩せていました。


彼女の母親はヨットを所有していて男友だちと遊びまわっていて、彼女自身はアパートを借りて住んでいます。
物語はイタリア映画を観ているような早いテンポで展開します。


あるとき、さる高名な内科医を紹介されて診察を受けました。
重々しい診察のあと、内服薬を渡されて、これを飲むと食欲が出ますと言われて激怒し、その高名な教授に噛みつきました。

そのことが精神科医たちの間で有名になり、たらい回しにされたあと、学校出たての若い女医にめぐり会います。


この若い精神科医の診察室は居心地が良くて1年間通いましたが、ある日、診察が終わって帰りかけると、女医さんがドアまで送ってきて、

「明日からあなたに何が起こっても、私にはあなたが助けられません。」と言います。
これで、この医師からの治療は終わりました。

彼女はしかたなくアパートの自室に戻って、自分のための食事を作り始めます。

なんと、この本の物語りはここで終わりです。


私は過食症がどのように発症し、どのように治癒されていくのか知りたかったのです。
患者がどのようにして立ち直るのか、本の中から心理や回復のヒントを読み取ろうとして、1日に数ページずつ時間をかけてじっくりと読み進めてきたのに、どのページにも、最後のページにも、診察室の様子が書かれているだけで、医師の意見も患者の考えも書かれていませんでした。


なぜ書かれていないのか、それは彼女自身が過食の理由や、治った理由を理解できていないからだろうと思います。
私はこんな本に高いお金を払ったことに腹を立てて本を捨ててしまいました。


この本を長いこと忘れていましたが、Mさんのお話から、本の結末がわかりました。
たぶん、こうだったんだろうと思います。


上流家庭で育った彼女は、料理をしたことがありませんでしたから、自室に戻った彼女が初めて作った料理は、じゃがいもを茹でるか、イタリアだからパスタを茹でるかだっただろうと思います。


自分の命をつなぐために、じゃが芋を茹で、炭水化物を食べれば、あ~ら不思議、 吐く必要などまったくなくなったのです。
次に、トマトやパプリカなど、食べたい野菜を買ってきて、自分で調理してみると、美味しさがわかるので、吐きたくなることなどなくなったのだと思うのです。


完結編を書くとすれば、そんな感じだっただろうと思います。
とにかく彼女は自分で料理をはじめたら過食しなくなったのです。
だから、物語りはそこで終わったのだろうと思うのです。