> 朝食前にジョギングをすると、空腹感がなくなりますが、あのときって、脂肪が燃えてるんですか?


運動をすると、副腎髄質からアドレナリンというホルモンが出ますが、このホルモンは闘争ホルモンです。

血圧を上げる。筋肉を俊敏にする。血糖値を上げる作用があります。
ですから、運動を始めてしばらくすると、血糖値が上がるので空腹感がなくなります。

そして、そのときが脂肪が燃えているときです。


空腹時は脂肪が良く燃える
下図は、川崎医療福祉大学の実験で、女子大生20名に、朝食前の空腹時と、朝食・昼食2時間後にエアロバイクを30分間漕いでもらって、脂肪の燃焼量を調べた結果です。
運動強度は、最大酸素摂取量の60%です。




この図は、わかりにくいのですが、グラフが上側ほどブドウ糖が燃えたことを示し、下に行くほど脂肪が燃えたことを示します。

赤線のグラフが、朝食前の運動です。
朝食前の運動では、運動の最初から脂肪が良く燃えています。

食後の運動では、糖の方がよく燃え、脂肪の燃焼が少ないことを示しています。


血中脂肪の増加
私たちの身体は、食後はインスリンが分泌します。

インスリンは、身体の各臓器がブドウ糖を取り込むのを助ける大切なホルモンです。
食後、ブドウ糖が血液に流入してくると、インスリンが働いて肝臓と筋肉がブドウ糖を貯蔵します。

同時に、インスリンには、体脂肪の溶け出しを抑制する作用をもっています。

身体で脂肪の貯蔵と溶け出しが同時に起こらないようになっているのです。


ですから、食後に運動をすると、インスリンのせいで体脂肪が溶け出してきません。

下図は、運動中の血液の脂肪濃度を調べたものです。

この図から、食後に運動すると、脂肪が溶け出してこないことがわかります。

朝食前の運動では、運動の最初から脂肪が燃え、時間経過とともに脂肪濃度が増しています。
一方、朝食後の運動では、時間経過とともに脂肪濃度が次第に低下しています。

これは、インスリンのせいで脂肪が溶け出してこないせいです。




有酸素運動
有酸素運動の話をすると、つぎのような反論をする人が必ず現れます。

・空腹時の運動は身体に悪いので、何か少し食べてから運動する方が良い。
・空腹で運動すると、筋肉が分解されてエネルギーになる。
・糖質を摂取しないと、脂肪が効果的に燃えない。
・痩せるかどうかはエネルギーバランス次第だから、運動で脂肪が燃えようがグリコーゲンが燃えようが結果は同じだ。
・有酸素運動よりも無酸素運動の方が減量効果が高いというレポートがある。
・1Kmジョギングするよりも、100mダッシュを10本する方が消費カロリーがはるかに多く、痩せやすい。


有酸素運動については、これまでに膨大な量の研究の積み重ねがあります。
上に挙げたような反論をする人は、あまり有酸素運動の理論を知らないように思います。

反論にはもちろん根拠があるのですが、少し偏っていると思います。


たとえば、医師は食後の運動をすすめますし、糖質を制限しすぎると、脂肪の燃焼がうまくいかなくなるのは事実です。

しかし、医師が食後の運動をすすめるのは糖尿患者ですし、効果的な脂肪の燃焼に必要な糖質の量はごく少量です。食べてから走らないと、脂肪が燃えないというわけではありません。


痩せるかどうかは、エネルギーバランス次第ですから、消費カロリーが大きいほど痩せられるのですが、いくら消費カロリーが大きくても筋トレや100mダッシュのようなグリコーゲンを使う運動では痩せられません。お腹がすくだけです。

痩せるかどうか、、エネルギーバランスだけではありません。

消費カロリーが少なくても、脂肪が多く燃える運動の方が良いのです。

なぜなら、脂肪は体内に豊富に貯蔵されているので、脂肪はいくら消費してもお腹がすかないのです。


たしかに、反論の一部には論文を根拠にしたものもあります。

しかし、論文をよく読むと、条件がちがったり、それがベストだといっているわけではなかったりします。

そのようなことについて、少しずつ書いていこうと思います。


グリコーゲン
ブドウ糖は脳のエネルギーです。
ブドウ糖は化学的に不安定な物質で、すぐに蛋白質に結合したり、腎臓を傷つけたりするので、人はグリコーゲンに変えて貯蔵します。植物の場合も、でんぷんに変えて貯蔵します。

グリコーゲンというのは、炭素と酸素が1・1の割合で百万個くらいつながった物質です。
炭素と酸素が1・1の割合で結合しているので、酸素がなくても燃焼することができます。
ちょうど、宇宙ロケットのように酸素がなくても燃えてパワーがでるので、筋トレや短距離走など、筋肉が最大パワーを出すときにでもっぱら使われます。


脂肪の燃焼

一方、脂肪は、炭素だけがつながった物質です。
石炭のような炭素の固まりなので、燃やすには、石炭から、まず、炭素2個ずつを切り出して、血中酸素と混ぜてからボイラーに運んで燃やします。

この石炭を微粉炭にすることをベータ酸化といいます。

ベータ酸化された燃料は、次にピルビン酸によってボイラーに運ばれて、エネルギーがとりだされます。
このピルビン酸が、糖質から作られます。
ですから、糖質がなければ、ベータ酸化された燃焼をボイラーに運べません。

重篤な糖尿病患者も投資代謝異常のためにピルビン酸が得られないので、ベータ酸化された燃料がはこべません。

ベータ酸化された燃料が滞留した状態を、ベータ酸化の異常亢進といいます。

異常亢進して脂肪は、ケトン体になります。


ですから、脂肪の燃焼には、糖質の摂取が必要なのは事実です。
しかし、ピルビン酸はベータ酸化された燃料を運ぶだけなので、ごく少量でよいのです。
血液中を流れているブドウ糖で充分な量なので、わざわざ食べてから走らないといけないというものではありません。


ピルビン酸がなければ、脂肪が燃えない




つづく...