昨日のアミノ酸ドリンクのコマーシャルは印象的でした。

あの動画を見ると、ランニング中に筋肉からアミノ酸がどんどん抜けていくような気になってしまいます。


有酸素運動をすると、筋肉が細くなると信じている人たちがよく引用する研究の1つにウェストバージニア大学の実験があります。


ウェストバージニア大学の実験
この実験は、入院中の肥満症患者をマシントレーニングと有酸素運動の2つのグループに分け、その
運動の効果を比較した実験です。


12週間のダイエットの結果、有酸素運動のグループは除脂肪体重が4Kg減少しましたが、マシントレーニングのグループは除脂肪体重がむしろ増加し、安静時基礎代謝も下図のように2.6ml/kg/min → 3.1ml/kg/min へ増加しました。



http://www.jacn.org/cgi/content/full/18/2/115


一方のマシントレーニングのグループは、体重はあまり減りませんでしたが、除脂肪体重が逆に増加し、基礎代謝も少し増加したのです。


この研究が発表されてから、有酸素運動無用論を唱える人があらわれました。有酸素運動は筋肉が消耗するので、たとえ、一時的に体重が落ちてもリバウンドしやすい身体になるので、むしろ有害だというのです。


しかし、この研究報告をよく読むと、そうでないことがわかります。
この実験では、平均基礎代謝が1600Kcalの人たちに対して、1日に800Kcalのドリンクしか与えられませんでした。

健康な人のダイエットでは、どんなに極端なダイエットでも、基礎代謝以上のカロリーを摂ります。800Kcalの食事といえば、拒食症以下の食事です。そんな食事で筋肉が落ちるのは当然です。


この実験で、有酸素運動グループの筋肉が落ちたのは、摂取カロりーが拒食症以下の極端なカロリー制限の結果だったのです。
もしも、摂取カロリーが基礎代謝以上であれば、有酸素運動グループの筋肉は分解されることがなく、体重だけが落ちていたはずです。


人体には糖が不足すると、脳の代替エネルギーとして筋肉を分解して糖を作る糖新生という仕組みが備わっています。この糖新生のせいで、筋肉が落ちたのです。


有酸素運動をするとカタボリックになり、マシントレーニングをするとアナボリックになると考える人いますが、それは違います。
有酸素運動とマシントレーニングでは、運動の目的が違うのです。有酸素運動は遅筋を鍛える運動であり、マシントレーニングは速筋を鍛える運動です。


速筋は内部にグリコーゲンを蓄えるので太くなりやすい性質があり、遅筋は血液中の脂肪をエネルギーにするために、遅筋内部のミトコンドリアが増加しますが、速筋のように太くなる必要がないのです。

遅筋が速筋のように大きくならないのは、有酸素運動がカタボリックで、

マシントレーニングがアナボリックだからではないのです。


たとえ、有酸素運動でも、筋肉に負荷をかけているかぎり筋肉が発達します。ただ、速筋のように目だって肥大しないだけで、筋肉が細っていくということはありません。


グリコーゲンと脂肪

体脂肪を燃やし、体重を落としたいのであれば、有酸素運動の方が確実に有利です。


速筋が筋肉内部に貯蔵しているグリーコーゲンは、炭素と酸素が1対1で結合した物質です。炭素と酸素が1対1で結合しているので、酸素がない宇宙空間でも燃焼を続けられます。

たとえば、筋肉のグリコーゲンをかき集めてロケットの燃料にすれば、宇宙旅行も可能です。だから、グリコーゲンは爆発的なパワーが出るのです。


一方の、脂肪は炭素の塊で石炭のようなものです。

火力発電所で石炭を燃やすには、まず、石炭を微粉炭に粉砕し、空気と強制的に混ぜ合わせて燃やします。そうすると、火力発電所の燃焼効率が飛躍的に向上します。


人体が脂肪を燃やすときも、同じことが行われます。

筋肉細胞が脂肪からエネルギーを取り出すには、まず、ミトコンドリアで脂肪1分子から炭素2個ずつを切り出して、酸素と結合させてからTCA回路に送り込みます。

TCA回路では、脂肪1分子から128個のATPが取り出されて筋肉の収縮に使われます。

このように脂肪からエネルギーを取り出すには手間隙がかかるので燃焼速度が遅いのです。


マラソンは、戦略と駆け引きのレースです。

もしも、グリコーゲンだけで42.195Kmを走りきれる人がいたら、大記録が打ち立てられるのですが、人体にグリコーゲンは400gくらいしか貯蔵されていません。

どうしても、グリコーゲンだけではフルマラソンは走れないのです。

そこで、スピードを抑えて脂肪を燃やし、グリコーゲンを温存しなければなりません。だから、マラソンは、戦略と駆け引きのレースになるのです。


明日は、スピードを上げると脂肪の消費が少なくなることと、ヒューマンカロリーメータの実験について書きたいと思います。