先日、所さんの目がテンで、朝食をたっぷり食べたら一日元気に過ごせるとして、次のような実験をしていました。
男性4人を、朝食に和食を食べるグループと、朝から牛肉ステーキを食べるグループに分けて、食後1時間、2時間、3時間の体温をサーモグラフィーカメラで測定しました。
実験を正確にするために、和食のグループも牛ステーキのグループもカロリーは同じです。
和食グループはご飯と味噌汁、魚の干物と少量の野菜で500Kcalくらいの料理でした。
牛ステーキのグループは牛肉が120gとキャベツ、人参などでご飯なしですから、牛肉中心のいわゆる糖質制限食です。
実験結果は、どちらのグループも食事直後は上半身が赤く、同じように体温が上昇しましたが、和食グループは1時間ごとに上半身の温度が下がりサーモグラフィカメラの色が緑色にななり、次第に青色の部分が広がりました。
牛肉ステーキを食べたグループは3時間経っても上半身の体温があまり下がりませんでした。
翌日、前日が和食だったグループに牛肉を食べてもらい、牛肉を食べたグループには和食を食べてもらって同様に実験をしました。
やはり、和食を食べたグループは3時間後には体温が下がってしまいましたが、牛肉を食べたグループは3時間たっても体温が下がりませんでした。
そこで、専門家(○○クリニックの院長)が登場して、牛肉を食べたグループの体温が下がらなかったのは、牛肉に含まれる脂質が消化を遅らせるためです。そのために、牛肉の消化に時間がかかり体温が落ちなかったのですと解説していましたが、この先生の解説は誤りです。
確かに、脂質は消化に時間がかかります。
バターなどは胃の通過するのに、8時間以上もかかることがあります。
だからといって、脂質だけたべてもあまり体温が上昇することがありません。
また、野菜を一緒に食べると、消化時間が長くなります。しかし、野菜を食べても体温は上昇しません。
だから、消化時間が長ければ体温が上昇するわけではありません。
牛肉だけではなく、蛋白食品を食べると体温が上昇しますが、それは次のような理由からです。
たとえば、牛肉100gには蛋白質が20g含まれていますが、20gの蛋白質を消化するためには、胃壁から20gの蛋白質消化酵素が分泌して、酵素反応によって蛋白質を分解します。
このときの酵素反応で熱が生ずるので、体温が上昇するのです。
栄養学では、摂取カロりーの10%を食事誘導性熱代謝と呼び、この熱代謝で体温が上昇します。
つまり、20gの蛋白質を消化するには20gの消化酵素が必要です。
そして、その酵素反応で熱が発生して体温が上昇するのです。
蛋白質を消化するための消化酵素は蛋白質でできていて、分泌した消化酵素の大部分は小腸で再吸収されます。
ただし、10%くらいは吸収できないで排泄されてしまいます。
蛋白質を食べると、消化酵素の蛋白質が損失することと、酵素反応の熱損失のために、食品の持つ熱量のうち、20~40%は失われるのです。
蛋白質食品のカロリーは平均すると、70%がしか利用することができません。
このことをまとめると、つぎのようになります。
損失エネルギー
食事誘導性熱で失われるエネルギーは、
糖質:摂取エネルギーの約6%
脂質:摂取エネルギーの約4%
蛋白質:摂取エネルギーの約20~60%です。
エネルギーの吸収率
食べ物のカロリーから食事誘導性熱損失を差し引くと、
糖質:94%
脂質:96%
蛋白質:60~80%
が吸収されることになります。
蛋白質はたくさん食べても太らない
蛋白質
牛肉100gあたりの熱量は180Kalですが、吸収率が平均すると70%なので、牛肉100gあたりの実質熱量は、180 x 0.7 = 126Kcalということになります。
炭水化物
ご飯100gの熱量は168Kcalですが、吸収率が94%なので、ご飯100gあたりの実質熱量は168 x 0.94 = 158Kcalとなります。
このように、蛋白質食品は消化時にエネルギーが失われるために、実質的なはカロリーが低いのです。
逆にいえば、糖質や脂質が多い料理は蛋白質が多い食事よりも太りやすくなります。
実際に、炭水化物を制限して、魚や鶏肉などの蛋白質が多い食事をすると、同じカロリーでも体重グラフが下がっていくので、実質的な代謝が上がったように見えます。
糖質制限食の元祖
糖質制限食の元祖はアメリカのアトキンス博士です。アトキンスダイエットが20数年前からアメリカで大流行しています。
わが国では釜池先生やドクター江部が有名ですが、糖質制限食は本来は糖尿病治療のための食事法です。
糖質制限食は、熱効率の悪いのでダイエットにも有効ですが、健康な人のダイエットとして最適な方法とはいえません。
糖質制限ダイエットの信奉者が多いのですが、たいがいの人は、患者リテラシー(理解力)が悪いように思います。
糖質制限食のいくつかの欠陥については、いつか機会があったら書きたいと思います。