有酸素運動をするとエネルギー源が、①常在していた糖、②筋グリコーゲン、③筋肉分解の順番で聞きました。これで合っているでしょうか?


それは違います。基本的に、筋肉は貯蔵エネルギーを使います。
たとえば、100m走で筋肉が使用するエネルギーは、ほぼ100%が筋グリコーゲンです。
フルマラソンで筋肉が使用するエネルギーは、筋グリコーゲン75%、脂肪20%、血中ブドウ糖5%です。
ウルトラマラソンで筋肉が使用するエネルギーは、筋グリコーゲン20%、脂肪80%です。
血中のブドウ糖は、肝グリコーゲンによって維持されていますが、血糖は脳に糖を供給するためのものです。


> 運動初期においては主に血糖がエネルギー源となり、枯渇し始めるとエネルギー源が脂肪に切り替わって血糖5:脂肪5の割合にシフトしていくのですか?


散歩などの低強度の有酸素運動では、筋肉は主に脂肪をエネルギーにしてパワーを出します。
ウォーキングでスピードを上げると、筋肉は筋グリコーゲンを有酸素で燃やしてパワーを出します。
ウォーキングのスピードが4Km/hのとき、エネルギー比率は脂肪60%、グリコーゲン40%程度です。
時速6Km/hの速足では、脂肪40%、グリコーゲン60%のように変化します。
エネルギーの使用比率は歩行速度によって変化します。脂肪は膨大な量が貯蔵されており、筋グリコーゲンは簡単に枯渇しないので、時間で変化するわけではありません。


> グリコーゲンが枯渇し始めると筋肉を分解し始める


肝臓にはグリコーゲン分解酵素が分布していますが、筋肉にはグリコーゲン分解酵素がありません。

食後時間が経過して血糖が低下すると、肝臓のグリコーゲン分解酵素がはたらいでグリコーゲンを分解、放出しますが、筋グリコーゲンが放出されることはありません。
筋肉のグリコーゲンは大事な緊急用のエネルギーなので、消費されたら、すぐに補給回復されるので、枯渇することはありません。筋グリコーゲンが枯渇するのは、フルマラソンの翌日くらいなものです。


筋肉は運動してもしなくても、日常的に分解と再生を繰り返しています。
筋肉は、常に分解されてアミノ酸になり、血中のアミノ酸を取り込んで再生を繰り返しています。
肝臓のグリコーゲンが少なくなると、肝臓は血中アミノ酸からグルコースを作り、血糖を維持します。
ですから、肝臓のグリコーゲンが枯渇することもありません。


もしも、血中アミノ酸が少なくなると、身体は筋肉を分解してアミノ酸にし血中に放出しますが、肝臓は脳の半日分のエネルギーを貯蔵できますし、血中にもアミノ酸がたっぷりあります。
したがって、肝臓のグリコーゲンが残り少なくなっても、血液中にアミノ酸があるかぎり、筋肉が分解をはじめることはありません。


> 糖については、1常在していた糖、2グリコーゲン、3筋肉分解という順番で合っているでしょうか?


筋肉は貯蔵エネルギーを使うのが原則です。
筋肉は安静時には、血中の脂肪を燃やしてエネルギーにしています。
筋肉はパワーが必要なときにだけ、筋グリコーゲンを有酸素または無酸素で燃やします。
ゆっくりした動作で、身体を始動させるときには、筋グリコーゲンを有酸素で燃やします。
スピードが必要なときは、筋グリコーゲンを有酸素で燃やします。
筋トレや100mダッシュでは、筋グリコーゲンを無酸素で燃やして爆発的なパワーを得ます。
筋肉がパワーを得るために、自分自身をアミノ酸に分解して、そのアミノ酸を燃やすなどというやり方はしません。


筋肉が分解されるのは、脳のエネルギーが不足したときだけです。
脳の血管関門は非常に細くて、脂肪や蛋白質は通過できません。脳の血管を通れるのは、グルコースのみです。
絶食、または、糖質制限食などで糖の流入が途切れて、肝臓のグリコーゲンが残り少ない状態が長時間つづいたときにだけ筋肉の分解が起こります。


糖尿病患者の場合、筋肉はインスリンの助けがなくてもグルコースを燃焼できるので、医師は患者に食後のウォーキングをすすめます。

しかし、患者が走りだすと、筋肉は主に筋グリコーゲンを有酸素で燃やします。


> ダイエット目的です。有酸素運動と無酸素運動どちらがよいのでしょうか?


ダイエットの目的は、体脂肪を燃やして減らすことです。
グリコーゲンは、炭素と酸素が1対1で結合した物質なので、宇宙ロケットのように無酸素でも燃焼する物質です。
脂肪は、炭素だけが長くつながった物質なので、燃やす前に、酸素と混ぜる必要があります。つまり、有酸素運動でなければ燃えません。だから、有酸素運動が良いのです。


脂肪組織に貯蔵されている脂肪は勝手に溶け出さないように、ロックされています。
体脂肪を溶かし出すには、2つの方法があります。


1つ目は、空腹にすることです。
空腹になると、すい臓からグルカゴンが分泌されます。グルカゴンが体脂肪に到達すると、ロックが外れて脂肪がとけだします。


もう1つの方法が運動です。
運動をすると、副腎からアドレナリンなど、筋肉を俊敏にし、闘争体勢をとらせるホルモンが出ます。

アドレナリンには脂肪を溶かしだす作用があるので、運動開始後しばらくすると、血中の脂肪濃度が増加してきます。
ですから、脂肪を減らしたいのであれば、空腹時に運動をすると最初から脂肪が良く燃え、運動を続ければ脂肪濃度が増してくるので効果的です。


私たちが運動をするのは、消費カロリーを大きくするためですが、せっかく運動をしても、食べる量がふえては何にもなりません。
大事なことは、運動で脂肪を燃やすことです。脂肪は体内に膨大な量が貯蔵されているので、いくら消費してもお腹がすきません。

筋トレや100mダッシュでは、消費カロリーのほぼ100%がグリコーゲンで、脂肪の消費はゼロです。
グリコーゲンを使うと、お腹がすくので摂取カロりーが増えてしまいます。だから、有酸素運動が良いのです。


下図は、川崎医療福祉大学の実験結果です。
女子大生たちに、朝食前と朝食2時間後、昼食2時間後に自転車を漕いでもらって、血液中の脂肪酸濃度を測定したものです。
朝食前に運動したときの脂肪酸濃度が点線グラフです。
朝食前に運動すると、運動の最初から濃度が高く、運動を続けるにしたがって濃度が増しています。
朝食2時間後のグラフは、運動を続けるにしたがって濃度が低下しています。

ダイエット7

朝食2時間後のグラフでは、脂肪の濃度が次第に低下していますが、インスリンの脂肪分解の抑制作用によるものです。

インスリンは、筋肉や肝臓がグリコーゲンを取り込むのを助ける重要なホルモンですが、同時に、脂肪分解を抑制する作用があるホルモンです。
食後の運動では、インスリンが脂肪の溶け出しを抑制するので、濃度が次第に低下します。
このグラフでは、朝食後2時間もたってから運動しているのに、インスリンのせいで脂肪が溶け出してきていません。
このように食後の運動は、脂肪の消費の点で損なのです。


これからは、早朝ランニングに良い季節です。脂肪を減らすには、早朝ランニングがベストです。