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後編
地方自治体の予算の使い方がよくわかる映画
そう言って笑った。
福井県もコロナ交付金計約1億6000万円を使ってJR福井駅前や坂井市の丸岡城など県内各地でイルミネーション創出事業を行なっている。 〈感染拡大で落ち込む夜間の街の賑わい創出を図る〉という名目だ。
福井駅前でハロウィンのコスプレをしていた女子高生に聞いてみた。
「福井のイルミネーション? あるっちゃあるけどわざわざ見に行くほどでもないかな。イルミネーションにコロナのお金をそんなにかけてるなんてドン引きです。それなら福井の医療関係の人に使うとか、もっと遊ぶ場所も増やしてほしい」
イルミネーション事業が行なわれていた県内の公園に向かう道中で乗ったタクシーの運転手が驚いていた。
「長年このあたりを流しているけど、イルミネーションを見に行くお客さんを乗せたことはほとんどないよ。イルミネーション代にそんなに金かけるなら、もっと街灯を増やしてほしいね。田舎道は暗くて危なっかしい。同じライトでしょう」
政府がコロナ対策としてスタートさせたコロナ交付金は、その後、「コロナ禍における『原油価格・物価高騰等総合緊急対策』」など経済対策のたびに予算が積み増され、今年度までの4年間で総額18兆3260億円に膨れあがった。もちろん、全部税金だ。
本誌が内閣府の資料をもとに交付金がどんな事業に使われているかを調査したところ、全国で「コロナ対策」にはほど遠い事業に流用されていることがわかった。 公園の照明やイルミネーションは氷山の一角だ。
アニメ事業に200万円
茨城県は2022年8月、コロナ交付金(約8000万円)で「カジキ釣り国際大会」を開催した。
「全国初のカジキ釣り国際大会で約200人が参加、陸上イベントには約3000人が集まった。多くのメディアに取り上げられ、コロナで観光客が激減するなど大きな影響を受けたひたちなか大洗地域をPRできました」
茨城県地域振興課の担当者はそう胸を張るが、国のコロナ対策予算でやることではないだろう。
新潟県十日町市は昨年3月、花火を400発打ち上げた。 「密集回避の観点から打ち上げ場所は事前非公表としましたが、SNS等で話題が広がり、コロナ禍で落ち込む地域に活気を創出した」(十日町市財政課) “抜き打ち”で花火が上がって住民もびっくりして喜んだということらしい。この「活気づけ」の花火などに使われたコロナ交付金は550万円だ。
NHKの連続テレビ小説『らんまん』放送に合わせて県をあげて開催しているイベント(博覧会)にコロナ交付金をあてたのが高知県高知市だ。
同市の観光企画課はこんな説明をしてみせた。 「地元自治体が実行委員会(連続テレビ小説を生かした博覧会推進協議会)に出す負担金1650万円を全額、コロナ交付金から拠出しています。コロナ交付金の使途のなかに『経済対策』があり、それに該当するためです」
朝ドラに使えるなら、大河ドラマでもいいじゃないか。そう考えたらしいのが2024年放映予定のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公、紫式部ゆかりの福井県越前市だ。
ドラマ制作が発表されると看板や幟(のぼり)を立てて観光PRを開始したが、その財源にはコロナ交付金(約485万円)が使われている。
紫式部公園に来ていた高齢女性が語った。 「頑張って観光客を増やそうとしとるのはわかるんやけど、コロナのお金やったんやね。ちょっと使うとこ間違えたんじゃないけ。もっと大変な思いしとる人いっぱいおるやろうに」
だが、税金を使うほうはそんなことは考えない。ドラマがいいならアニメもいい。
埼玉県は県内のアニメの舞台をめぐる“聖地巡礼”で観光を盛り上げる「アニメだ!埼玉」事業に約200万円のコロナ交付金を投じている。
(後編に続く) ※週刊ポスト2023年11月17・24日号
【検証・18兆円コロナ交付金】知事の外遊、公用車購入、小学校の雨漏り工事のどこが「コロナ対策」なのか? 「国が認めた」と開き直る自治体も
政府がコロナ対策としてスタートさせたコロナ交付金は、その後、「コロナ禍における『原油価格・物価高騰等総合緊急対策』」など経済対策のたびに予算が積み増され、今年度までの4年間で総額18兆3260億円に膨れあがった。
4人は「密」? 「少人数」?
知事の外遊の財源にもされている。岩手県は、コロナ禍やアフターコロナにおける“岩手県産品の輸出拡大”を名目に、達増拓也・知事が2023年12月にマレーシアとシンガポールを訪問予定で、旅費(約642万円)や物産展「いわてフェア」の費用など総額約2800万円がコロナ交付金から賄われている。
「内閣府のコロナ交付金の活用事例集を見ると、コロナ感染した地域の経済、地域住民の支援のために交付金を使えると説明されており、それに従った財源としております」(財政課)
と説明するが、マレーシアでの「いわてフェア」は2007年から毎年行なわれており、達増知事はコロナ前からシンガポールにもシティセールスに出向いていた。「アフターコロナ」のために新規に始めた事業ではない。
別掲のリストは本誌が調査したコロナ交付金流用事例の一部だが、自治体の言い分を聞くと、コロナ交付金を使う理由には疑問ばかりだ。
山口県阿武町は「1台あたりの乗車人数を減らして職員の三密を回避するため」(総務課)とマツダの公用車を新規購入し、中国山地を挟んで反対に位置する山口県和木町は「公用車に同乗する職員の密を避けるため」(企画総務課)と電動自転車を3台購入している。
国が基準を示さないから「三密」の判断も自治体で違う。
公園内に定員4人バンガローや温室を建設した島根県邑南町は「少人数でコロナに配慮した活動が可能となる」(財務課)と説明し、鳥獣被害監視用の自動撮影カメラを購入した富山県朝日町は、「これまで防護柵を4人の監視員で回っていたが、密になるのを避けるためカメラを導入した」(農林水産課)と答えた。ある自治体は4人が「少人数」と言い、別の自治体は4人が「密」と言うのである。
コロナにこじつければ使途は何でもありの流用し放題なのだから、財政が厳しい自治体にとっては、“お上(国)からお金が降ってきた”ようなものなのだろう。
「国が認めた」という主張
次第に大胆に流用するようになっていったのが福岡県みやま市のケースだ。
同市は2020年度に〈雨漏りのため、使用出来る範囲が狭くなり、避難所開設時に密な状況が生じている〉という理由で市内の小学校の体育館の雨漏り改修工事にコロナ交付金を申請した。
小中学校や公共施設の雨漏り工事は本来、市の予算でやるものだ。
「うちとしては国が示すコロナ対策の基準に則って、事業を申請しているということです」
同市の企画振興課長は「国が認めた」と言い張った。
自治体がコロナ交付金を受けたい時は、事前に実施計画を総理大臣に提出して承認を受けることになっている。
やりたい放題の税金流用を、岸田首相は黙認したのではないのか。財務省とともに国民に増税を強いる一方で、好き放題に使っているなら“奪税集団”の誹りを免れない。実施計画を精査する内閣府地方創生推進室に質した。
「感染対策をしつつも経済を回していくという相反する事情があるなかで、各自治体が事業の必要性を検討して申請をしてきていると考えております。自由度が高い分、あとから見て検証が必要だという部分は当然にあって、『各地方公共団体において説明責任を果たしていただくよう、お願いします』と言ってきた」
自治体が「国が認めているから問題ない」と開き直れば、国は「説明責任は自治体にある」と責任を押し付ける。
こうして18兆円もの税金が無駄遣いされている。