南海トラフ地震、高齢化ピークと重なり被害拡大も
南海トラフ地震の発生時期は2030年代といわれる。本欄では、南海トラフ地震にどう備えるかについて考える。今回は、中央防災会議(内閣府)で同地震の被害想定をまとめた河田恵昭・関西大特別任命教授に今後10年間で取り組むべきことについて聞いた。
(編集委員 北村理)
■命守る取組みが最優先
Q 8年前に公表された南海トラフ地震の被害想定を振り返って
A 公表時は、平成23年東日本大震災とは異なる大災害になることを強調した。南海トラフは大震災が起きた日本海溝に比べ、深度も距離もかなり陸地に近い。大震災の津波到達時間は数十分だったが、南海トラフ地震は数分で到達する場所がある。地震の揺れも大震災より厳しい。まずは「命を守る取り組みを」と国民に呼びかけた。
Q 強い揺れによって津波避難が困難になり、複合災害も起きるのでは
A 1分以上の揺れによる家具転倒や建物倒壊で避難路がふさがれる。28年熊本地震のように地震の影響で土砂災害も起きる。津波からの避難のためには各家庭、地区で避難計画を立てることが必要だ。自分の生活圏で、自分や家族にとっての安全な避難場所はどこか、津波からの避難を妨げる要因は何か、正しく認識することが必要だ。
■死者100万の試算も
Q 想定死者数は32万人。対策次第で数分の1に減るとも示されたが
A 公表当時の目算はそうだが、あれから8年たった。この間の自然災害では年々高齢者の被害が目立つ。南海トラフ地震の恐れが大きくなる10年後は高齢化率はピークになる時期でもある。自然災害のたびに「逃げない人」が課題となるが、逃げたくても「逃げられない人」が増えるということだ。
Q 30年西日本豪雨では自宅の2階に上がれない高齢者が多数いた
A 例えば岡山県倉敷市の真備(まび)地区。51人の犠牲者のうち8割が70歳以上、42人が災害時の避難に支援が必要な「避難行動要支援者」だった。こういった状況が今後、ますます深刻になる。真備地区の状況を南海トラフ地震の被災想定自治体に拡大すると、100万人以上の犠牲者がでる可能性がある。10年後はさらに増える。
Q 被害を減少させる方法は
A まずは家庭の中を地震があってもさえぎるものがなく逃げれる環境にすること。地区ごとに各家庭の状況を共有して、支援が必要な高齢者を車などで迅速に搬送する方法をもつこと。地区の助け合いが困難な場合は行政に協力を求めること。過疎化が進み避難を支援する住民が少ない地区は、事前に安全な場所にコミュニティを移すことも必要だろう。
■経験ない被害の可能性
Q 大阪など都市部の対策は
A 大阪こそこれまでに経験したことのない被害が起きる。大阪は江戸時代も津波の被害を受けている。現在は工業化の過程で地下水をくみ上げ地盤沈下を起こしており、危険度が増していることに留意すべきだ。大阪市内の地下鉄、地下街など地下空間の容量は1500万立方メートルだが、南海トラフ地震の津波が80センチ堤防を超えると1億8000万立方メートルの海水が流入し地下空間は水没する。
Q平成7年阪神大震災では木造住宅の倒壊と火災で犠牲者を生んだが
A 大阪市内は木造住宅の密集地が全国のワースト10のうち8か所ある。液状化により沿岸部の家屋や高層ビルの被害も広がる。課題克服は不可能でない。時間との闘いだ。