- いま、イキガミが届いたら―余命24時間だと考えてみる/著者不明
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「虚脱」
気力をなくしうつろな状態になること。
「空虚」
真実味や内容がなくむなしいこと。
…………………………。
何も無かった。
思考も。感覚も。視覚さえも………。
魂が抜けた。
抜け殻。
真っ白な灰………。
液体が流れ落ちる感覚が両頬を伝った。
そして両手に何かが当たっている。この感覚は…そう。
「冷たい」……「冷たい」という刺激だ。
ざあざあと言う音も鼓膜を刺激した。
水飛沫が見えた。
そうだ。
………「水」だ。
先程から俺の手に当たり続けているのは紛れもなく「水」だった。
風が俺のふくらはぎ、そして臀部を撫でた。
視界を落とす。下半身には何も着けていなかった。
水に打たれ続ける両手には布を握り、今までずっとそれを流れる水の元で
一定のリズムで擦り続けて居る。
握り絞められている布、それは俺が「ジャスコ」で買い求めた
「勝負下着・グンゼのボディーワイルド」だった。
ここは…何処だ…。
下半身の衣類に大きな不快感を覚えた俺は、下着を求めるべくコンビニエンス・
ストアに駆け込んだ。
「いらっしゃいませ!」
明るい声が降注いだ。
大学生とおぼしき女性が立っていた。
「コンビニがあったか………!」
しかしながら今の俺には全く、「後の祭」だった。
下着を………財布を探る。
ある訳なかった。俺は「身ぐるみ剥された」のだから。
それでも下腹部の違和感は如何ともしがたい。俺はレジに立つ女性にトイレを貸
して貰う旨を伝えた。
俺の風体に目を見開いた女性は
「ど………ど、どうぞ。」
怯えきった声を出した。
トイレに飛込んで鍵をかける。下半身の着衣を脱ぎ下着を洗い始めた。
………そして俺の全思考回路は停止した。
『イきがみ』………「国家繁栄維持法」のもと「国繁予防接種」によって六歳か
ら俺の体内に潜伏し続け、今朝、下腹部で起爆した「ナノカプセル」………。
その威力は絶大だった。
駅前で炸裂したそれは、今まで見た事のない、大量の「性なる咆哮」を放出した。
下半身の着衣は起爆と共に一気に隆起し、そして風船が萎むかのように収縮して
前面を大きく濡した。ジーンズだったにも関わらず………。
俺が起爆と同時に見たもの…それは駅の大きな時計………の上、7時丁度に繰り
出された「鳩のオブジェ」だった…。
今。
俺はコンビニのトイレで「下着」を洗っている。
レジの女性は未だ怯えている事だろう。下半身を大きく濡した男がトイレに籠っ
ているのだから。
ただ黙々と涙を流し、下半身を晒して。
「藤本某」によってもたらされた『イきがみ』。その「発射予定時刻」に向け、
俺は丸一日、「有意義」で「無駄のない」「発射」を迎えるべく走って来た。
頭痛か、必死の行動か、はたまた「鳩のオブジェ」の為か…オルガスムスを迎え
る事なく俺は「イった」……。
水は蛇口から懇々と流れ続けている。
握られた「下着」を通り、そして俺の「白い息吹」を伴って排水口へと吸い込ま
れていく。
勢いのあるその流れは下水管を突進み、街を抜け、施設を抜け、きっとその先は
大海原へと続いているのではなかろうか………。
流れに乗って進め!
億単位を超える俺の『イきがみ』………『イき「ネ申」』達よっ!!!
「海」………それは生命の根源。生命の泉。生命体の聖なる母………。
そうだ。
その「母」なる「女体」の…………
女体の奥底の『子宮』へと………。
泳いで行け……………。
《おわり。マジおわる。》