つりぼり十番勝負《ニジマス編⑤》
「じ、じっちゃん!おら、困ってるっペよ!」
「三平、どした?…・・・・・・よし。わしのやり方見てるだぞ。」
「うん!!でも、じっちゃん!おら、今「五平」なんだ………」
「ははっ。しんぺぇいらね。わしのやる通りやりゃ、三平じゃ。」
「うん!!分かったっ!じっちゃんっ!」
そんなやり取りを心で交わす程、その横で釣りを始めた釣人のキャスティングは見事なものでした。
実際には「じっちゃん」よりは「魚神さん」………
いいえ、もっと若いお兄ちゃんなのですが、今はそんな細かい事はどうでもいい。
そのしなやかな竿の振り、風切る音、全てをもってしても「じっちゃんクラス」と言うべき程のテクニックの持ち主なのでした。
何本かを投げた「じっちゃん」は、アタらないのを見るやすぐさまルアーを変更。
遠目からでしたが私が最初から使っていたルアーに良く似ているようです。
「良く見るんじゃ!三平。」
「うん!!じっちゃんっ!!」
チラリと合った視線でそんな会話が交されたと私には思えました。
「この辺りからわしは仕掛ける。おめぇはこの奥からじゃ。」
「うんっ!!」
「この拍子で巻け。そうじゃ、わしに合わせて!」
「いいっぺよ!じっちゃんっ!」
そこから「じっちゃん」は神懸かった様な怒濤の釣りを見せます。
流れる様なキャスティング。
リールを巻く………。
「ヒット!!」
そして魚を取り込む。
その動作が何度となく繰り返されるのでした。
今同じつりぼりで釣っている事が嘘かの様な釣果を見せるのでした。
「じっちゃんっ!これでいいんだべか?」
「おらを真似れ!さすればおめぇは「三平」じゃ…」
目を丸くし「じっちゃん」の釣果に驚きつつ、過去の栄光か、今の驕りか…………
「三平師匠」は、今までの釣りと変わらずじまい……。
やっと一本を上げその釣果を「4匹」としたのです。
「三平っ!今ここが一番「食いが立つ場所」じゃあ!!」
「じっちゃん」が投げる。
そして私が投げる。
遂に二匹目を上げました。
じっちゃんの「教え」がこの身に浸透し、何かを掴んだ様な感覚に包まれました。
「それで良いんじゃ……。」
私がそう思ったのは「じっちゃん」が私を向き投掛ける微笑みに他なりません。
さらに一匹、そしてまた一匹…………。
とうとう同点まで漕ぎ付く事が出来ました。
そしてその時、久し振りに「三平師匠」に視線を合わせました。
「追い付いたぜ!三平師匠っ!」
その表情全体に焦りの色を漂わせ時計を見る「三平師匠」。
「後、20分位か………。」
どうやら4匹目以降は大したアタリにも恵まれず、何とか同点で「三平」のタイトルを守り切りたい……。
そんな弱気な心情がその表情から滲み出ていました。
「じっちゃんの教え」で開眼した今、私はこのままドローで終わる気など微塵もありませんでした。
残り時間は少なくなっていましたが、必ず釣れると信じキャスティングに入ります。
すると横にいた「じっちゃん」は竿をしまい帰る支度に入りました。
心の中で言葉をつりぼりから去る「じっちゃん」の背中に投掛け、「教え」の通りリールを巻く。
「ありがとう、じっちゃんっ!助かったっぺ!」
「最後まであきらめるでねぇぞ、『三平』。」
「うん!おら諦めねっ!」
ニジマスがルアーを引く手ごたえが私の竿を伝いその腕を震わせるのでした。
《おわり》
『つりぼり十番勝負』 過去の対戦はこちら
『戦いの導火線』・・・・・・・・・《ヘラブナ編》
『戦いの発火装置』・・・・・・・・・《鯉編》
