前に座っていた初老?のようなおじさんが彼に言った。

彼は一瞬おじさんをジッと見て、

「は?」
と言った。

彼は言われたことの意味が分からないような感じだ。
私は自分の事なのになぜかすごく冷静に見ていた。

するともう一度おじさんが、

「だから、あんたが隣の子にぶつかったから、その子のかかとが折れちゃったんだよ」

私もふと自分の事だと思い出し、

「あ、すいません。」

と一言おじさんに言い、
そして彼にも

「さっきあなたが私にぶつかった時にヒールが折れちゃったんです」

私はなんとか自分の状況を彼に説明?した。

すると彼は

「はい、で、どうしろって言うんですか?」

私は彼の発した言葉に唖然とした。

一言くらい謝るのかとおもいきや、全く悪気のない言葉に私はどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

しかし次の瞬間先ほどのおじさんが、彼に

「その言い方はないんじゃないか。あんたがぶつかって折れちゃったんだよ。」

彼は少しイラッとしたような感じで

「うるせー、お前には関係ないだろ!」

とおじさんに言った。

するとおじさんもさっきまでの穏やかな感じが消え、彼を睨みつけて言った。

「あんたさ、さっきから丁寧に状況を教えてやってるのに何だその態度は」

何だか険悪な雰囲気になってきた。
私はどうも出来ずにいた。
私だって彼の態度を見てると、少しずつ頭にきていた。

彼は黙っていた。

そこに追い討ちをかけるようにおじさんが

「あんた謝ることも出来ないのか?しょうもないやつだのう」

彼もこれには黙っていられなかった。

「うるせーって言ってんだろう!」

ここまできて私も状況が変わって来ていることに気付いた。
今日は本当に良く晴れている。
冬の終わりを告げるかの様な天気だ。
私は今週最後の通勤中。

見慣れた顔が電車の中にはずらりと並んでいる。
なんか微笑ましく思える。
私はいつも思う。
この中の人とはみんな他人なのに、どこかで出会っていれば知人に変わる。
おかしなことだ。

他人と知人それに友人も紙一重だとつくづく思う。

私の今までの人生の中で友人と呼べる人はどれくらいいるのだろう。
じゃあ、知人は?

あ、なんて変な事を考えているのだろう。

答えの見つからない事を考えるのが私の癖の様なもの。
自覚はしているけど、治せるものではないし、別に治そうと思ってもいない。

ここまで自分に言い聞かせて、納得する。

そして、またふとした瞬間に同じ様なことを考えている。

とした瞬間電車が急ブレーキをかけ、止まった。

私は思わず我にかえり、今までの考えていたことを忘れてしまったような感じだ。

電車はさほど混んではいなかったが、横に立っていたひとが私にぶつかった。

「あ、すいません。」

その人は一言だけ発してまた携帯電話をいじりはじめた。

社内アナウンスでは、前を走っている電車で人身事故が発生した為、止まったとのこと。

安全の確認がをとっているので、しばらく停車しますと言っている。

私は自分の異変に気が付いた。
こんな時にどうして。
ヒールが折れている。
さっき横の人がぶつかった時に足を蹴られたような、踏まれたような感じだった。
その時の衝撃で折れてしまったんだ。

どうしよう、この人に言うべきか我慢するか。

でもなんか腑に落ちない。
なんで私が我慢しなくちゃいけないの。
この人がぶつかったから私のヒールは折れたの。
言って当然よね。

私は自分に言い聞かせるようにしてこの人に言いかけた瞬間、前に座ってた人が、

「お兄さん、隣の子の靴のかかと折れちゃったよ。あんたがさっきぶつかった時。この子気付いてないみたいだから」

私は自分のことなのに状況が飲み込めなかった。