ちょっと前ですが、一般紙と日経の両方に、某メガバンクが取り組んでいるフィンテック新規事業の話が載っていて、そのあんまりな内容に絶句していしまいました。

 

 どんなサービスかというと、

 

スマホのアプリを使うと、現金自動預け払い機(ATM)を乗せた自動運転車が自宅前まで来てくれて家に居ながらにして簡単に預金を引き出せる

 

 というんだそうです。

 

 で、そのサービスを準備しているメガバンクのフィンテック子会社は、

 

オフィスにはドローン卓球台が置かれていて、米シリコンバレーのIT企業のようだ。社員はジーパン姿も許され銀行の子会社とは思えない

 

 という様子だそうです。

 

 ジーパン!ドローン!卓球台!そもそもデニムでもジーンズでもなく、ジーパンですよ。

 

 もうそれだけでおなかいっぱいなんですが、なによりも「スマホで注文すれば、移動式ATMがやってきて、簡単に預金が引き出せる」というところです。

 

この記事を書いた記者さんは、「何かがおかしい」と思わなかったんでしょうか。

 

「スマホのアプリで代金を支払うようになるから、そもそも現金はいらなくなる」。フィンテックって、そういうもんじゃないんでしょうか?

 

 でもまあ好意的に考えれば、これは、地銀が田舎の支店網を縮小したあとの高齢者向けサービスってことなのかもしれません。

 

 という長い前振りでしたが、地銀にとっては(メガバンクにとってもそうですが)フィンテックは致命傷になりかねません。

 

 わかりやすく例えれば、NTT(ドコモじゃなくて本体の方)の歴史ですね。

 

 30年前の日本は、あらゆる家庭に固定の電話機があり、町中いたるところに公衆電話が置かれ、電信電話はNTT(電電公社)の独占ビジネスだったんです。

 

 どこかの会社が新規参入しようとしても、電話線を引いたり、公衆電話を設置したり、そういう設備投資がべらぼうにかかるので、すでに設備一式を持っているNTTにはかなわない。だから、そもそも参入しようなんて会社自体、現れなかったんです。

 

 ところが、携帯電話の登場で事情が一変しました。NTTも新規参入組もゼロからのスタートで無線局などの設備投資を行うことになりました。チャンス到来です。いままでNTTが大金を投じて整備してきた固定電話の設備は、ぶっちゃけ「過去のもの」「役立たず」「無駄」になってしまったわけです。乱暴で言い過ぎなのは承知の上での表現ですが。

 

 それでもNTTは携帯電話のビッグウェーブに乗り遅れないよう頑張って、ソフトバンクやKDDIと価格とサービスの両面でガチンコの体力勝負を繰り広げ、さらに「iモード」という新サービスの開発にも成功して、NTTドコモという形に脱皮することで生き延びることに成功したわけです。

 

 さて、地銀はどうでしょうか。

 

 地銀の強みっていうのも、かつてのNTTと同じようなものでした。

 

 地元に無数の支店とATMを設置していて、地元民としては地銀に口座を開かないと、お金の問題で大変不便な思いをするわけです。都市銀行とかが参入しようにも、ATMの設置にこれまたべらぼうな手間と資金がかかるし、国の規制もあったので、地銀の独占状態だったわけです。

 

 ところがしばらく前から事情が変わってきました。全国のコンビニにATMが設置され、ネット銀行でローンやキャッシングや投信の購入が地銀より良い条件で出来るようになりました。地銀に頼らずとも、不便を感じずに済むようになってきたわけです。

 

 フィンテックが進んで、みんなが現金を使わずスマホのアプリや電子マネーで買い物の代金を払うようになれば、地銀の存在価値はますます小さくなっていくこと、間違いなしです。

 

 そんな流れの中、地銀はやむえず、ネットとは無縁の高齢者や田舎企業から金を巻き上げることに生き延びるための活路を見出してきたわけですが、高齢化と地方企業の衰退がどんどん進んでいくなか、それも立ち行かなくなってきているわけです。 

 

 というわけで現在、気の利いた地銀は郡部(すごい田舎地帯ってことです)の支店を縮小して、主要地方都市の支店強化や、大都市圏への越境出店、ネットの個人ローンに人員を振り向けているわけです。

 

というのも郡部の支店って、収入は公的年金だけで、ATMさえかたくなに使おうとしない、ましてネットバンキングをや、っていう、いかんともしがたい高齢者が年金を引き出しに窓口にやってくるだけですよね。今や。

 

銀行としては全く金にならないので、本音はさっさと店舗を閉めたいところ。だったら、ゆうちょ銀行に代理店になってもらって、郵便配達の人が移動式ATMになればいいし、良ければそのまま顧客ごとゆうちょさんに差し上げますよ、ってでもいいですしね。そんなレベル感です。

 

もちろん、「地元密着の手厚いサービスで、地銀は生き残ることができるはず!」という主張もあります。金融庁だって「目利き力を生かして、地元企業を育てて、ともに生きていくのがいいのではないのでしょうか?」と地銀に呼びかけているわけですし。

 

つまり、地銀マンは足を棒にして地元企業を回って、手厚いサービスと様々な提案力やらコンサルティングだのに力を入れることで、存在価値をアピールしろ、ということですよね。

 

しかしこの考え方、残念ながらあんまり論理的ではないんですね。

 

考えても見てください。「優秀な担当者が手間と暇と時間を割いて、対面でいろいろ手厚くサービスしてくれる」っていうのは、これ普通、富裕層などお得意様向けのサービスですよね。一般客やそこらの中小企業にそんな手厚いサービスしてたら巨額の赤字です。

 

だから地銀だってこれまでも、優良客には手厚いサービスを、一般客には最低限のサービスを提供してきたわけです。

 

ところが最近は地方においても、優良客にはメガバンクや投資ファンドやら外資やらが、田舎地銀にはできないような、より高品質で手厚いサービスを提供し、一般客にはネット関連の業者が、より安くて便利なサービスを提供するようになり、地銀の商売を食い荒らすようになってきたわけです。

 

こうなると地銀としては、新たなライバルとガチンコの体力勝負を繰り広げるために、合併やら地銀連合の結成やらで事業規模を拡大するか、あるいは何かすごい新サービスを考え出して独自の道を進むか、それしかないわけです。NTTの教訓から考えてみると。

 

それにそもそも、今現在、銀行は大いに余っています。

 

バブルの前までは、企業はどんどん工場を建てていて、銀行から金を借りたいという需要は山ほどあったわけですが、いまは、どこの会社も設備投資には慎重です。これからも、設備投資が昔のように増えるってことは望み薄でしょう。

 

 銀行が余っているかどうかのバロメーターの一つに「預貸率」っていうのがあるんですが、地銀の平均預貸率は2016年度が66%でした。

 

 この預貸率というのは、銀行が預かっている預金の総額の何%を融資として貸し出しているのか、という数字です。

 

 ちょっと乱暴なたとえですが、工場の稼働率のようなものです。預貸率が66%ということは、地銀は全力を出せば100の仕事ができるのに、客がいないので66の仕事しかしていない、ということです。要するに、地銀全体として今の3分の2の規模まで縮小すれば、需要と供給が一致してちょうどぴったり、ともいえるわけです。もちろん、すごく乱暴な言い方ですけど。

 

 でもそういえば、大規模リストラを打ち出した某メガバンクの偉い人も、「国内部門は3割減らす余地がある」って言っていましたよね。

 

 現時点でもそんな銀行の余り具合ですから、フィンテック時代が本格化すれば、ますますってことですよ。きっと。

 

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