追加物資を持って来たアマネは、サラと今後の事を話していた時だった。
「巫女さま、ご相談したい事があるのですが・・・」
突然、こちらの集落の巫女に話しかけられた。
「はい、なんでしょうか・・・?」
「実は、回復して来た病人と その家族から水の里に留まりたいとの要望がありました」
サラとアマネは、顔を見合わせた。
アマネは頷くと、口を開いた。
「その件で、大巫女さまよりお言葉を承っております。
場所を変えましょう。」
「はい」

三人は巫女の社に場所を移した。
「こちらが大巫女さまよりお預かり致しました文でございます」
そう言って、アマネは巫女に文を差し出した。
「拝見致します」
巫女は文を両手で持ち、頭まで持ち上げると軽く会釈をしてから開いた。
文の内容は、簡単なものだった。
『病気完治後に水の里へ移住を希望する場合は、許す。
住居や食糧の負担分は、追加で支給するので必要量を報告せよ』
以上だった。
「大巫女さまは、今回の件で貴女さまに大変 感謝をしております。
病人を受け入れるだけでも大変な事ですのに、看病まで引き受けていただきました。
なかなか出来ない事です」
「いいえ、大巫女さまのご配慮があってこそです。
移住の件、感謝致しますと大巫女さまにお伝え下さい」
「承りました」

急ぎ戻ったアマネからタミは報告を受けていた。
「移住を許可するとしても、あちらの集落は、そのままで良いのでしょうか・・・?」
「土地神さまは手を出すなと仰せです。
私には、どうする事も出来ません」
二人は口をつぐんだ。
その沈黙は、永遠に続くかのようだった。
「不満か・・・?」
突然、現れた金剛の姿に二人は大きく目を見開いた。
「これは、人間には関係のない事だ。
だが、お前たちには教えておいてやろう。
今後こう言う事態は、いくらでもある事だ」
「申し訳ありません」
タミは、平伏して謝罪した。

人間には、生きている人間を生け贄にする風習がある。
命を犠牲にする事で、その土地の荒ぶる神々を静めるのだと言う。
しかし、それは人間が勝手に考えた偽りの行為にすぎない。
その集落でも、かつて巫女が生け贄となった。
その小さな火種は、きちんと祀られる事で災いになる事はなかった。
月日が流れる事で、やがて祀られている意味を失い少しずつ邪気を放って行った。


つづく・・・