1997年春、就職した二人はそれぞれの任地に旅立った。

私は中国地方の一都市に赴任した。労働環境は過酷で、文字通り土日もなく働きづめであった。

社会人一年生として早く適応することに必死で、彼女含めて大学時代の友人と連絡を取る余裕はなかった。

 

半年があっという間に過ぎ、年の瀬を迎えたころ、赴任先の自宅に一通の封書が届いた。

封筒の裏面には水戸市の住所が書いてあったが、差出人の名前がない。代わりに「ふっふっふーだれだー?」と書かれていた。

 

 

しかし、大学時代に何度も目にした筆跡、そして赴任先の都市が書いてあることから、当時の私はひと目で彼女とわかったはずだ。

 

開封すると、クリスマスカードが入っていた。

 

<封書>1997年12月?日(消印読み取れず)

Merry X'mas !

●●さん。 お元気ですか?ずいぶんごぶさたしてます。
お仕事大変そうですねー、体力もいりそうだし…

 私の仕事も、毎日毎日文字を書いてるのでなかなか手紙を書く気が起こらないの。。

〈へにょ~〉※ウサギの絵

水戸は納豆がマジでおいしい。毎朝たべてたりして、そのうち体からニオイを発しそうです。
結構、今日はハイな気分です。(仕事が一段落ついたから♥) だから半分いきおいです。
だんだん寒ーくなりますので、おやじの体をいたわってあげてね。 

うーん、二度と返事が返ってこなさそうな文面になってしまった。
では。

 

 

彼女の7通目は前年の4月だったから、実に1年8か月ぶりの便りとなった。この年にあったCOP3京都会議の切手が時代を感じさせる。

 

久しぶりに見た彼女の字は少し躍っていて、学生時代の7通とは何か様子が違う。これまで彼女がハートマークを使うことはなかった。1歳違いの私を「おやじ」といじるなど、妙にくだけている。

 

もう済んだこととはいえ、この年は正月早々に卒業旅行をめぐる気まずい出来事があった。私が参加するなら行かない、と彼女はキャンセルまでした。彼女が2年の時から心をぶつけ合った相手と和解できないまま卒業したのだ。でもこの手紙は、そんな過去などまるで無かったかのような、リラックスした距離感だ。

 

「今日はハイな気分です(仕事が一段落ついたから♥) だから半分いきおいです」とある。いま読み返して、このときの彼女は酒が入っていたのではないかと想像している。

 

彼女は卒業旅行の一件で、私と決別のような形になってしまったことをずっと気にしていたのではないか。日記編で検証した通り、トラブルの原因は彼女の気持ちを確認せず不用意に踏み込んだ私にある。しかし、過去の手紙からも分かる通り、私より遥かに精神的に成熟していた23歳の彼女は、その年のうちに自ら歩み寄ったのだ。

 

なかなか手紙を書く気が起こらないの」とも書いている。クリスマスカードというきっかけを頼み、お酒の力も借りて、気まずい相手への便りを「いきおい」で書きあげた。私はそう思っている。

 

一見すると他愛のない近況報告。その行間から彼女が伝えたかった真意は、7通目の最後の一文ではないだろうか。

●●さんが私をひとりの友人として見ようとしてくれてることを嬉しく思います。きっとなれますよ!

その気持ちは変わっていない、あなたを拒絶しているわけではないというメッセージを、あえて冗談交じりの文面にして伝えたのだと思う。

 

彼女がくれた「修復」のきっかけ。慣れない土地で仕事に追われ、交際相手が欲しいと感じる時間もなかった24歳の私にとって、思いもよらぬクリスマスプレゼントだった。

 

最後に彼女は「二度と返事が返ってこなさそう」と記した。

 

そうはならなかったようだ。