あぁあの時の匂いがする。

 

冷たくて甘い香りのする風が、身体をやするように吹き付ける。

 

あぁあの時、私は結局、何か答えを見つけただろうか。

 

ひんやりと顔に柔らかい雪が張り付く。

それを、指でぬぐい取る。

指の温度で雪は解け水が滴る。

その指を何気なく、口に含む。

味見をするように。

 

あぁあの時、私は泣いていたっけ。

そして、同じように、降る雪を少し口に含んだっけ。

 

喉が物足りないくらいに潤う。

味はしない。

ただ、

冷たさが、身体を染み渡る。

 

自分がここにいる、と実感する。

 

あの時、雪の降る夜道を傘も差さずに歩いた私は、その時の感情をどこかに忘れて、今ここにいる。

 

なんでも忘れてしまうのかもしれない。

 

あんまりよい記憶ではなかったはずなのに、どこか寂しい気がする。

 

あの時と同じように、傘を閉じてみる。

 

あの時、身を刺し殺すように感じた雪の温度が、今は身体と冷えた感情を温めるように包み込むように感じる。

 

時間 と どこかに忘れてきた記憶 がきっと。

少女を変えている。

 

あの時泣いていた少女は、

今、

不器用ながらに笑みを浮かべて、雪の中、懸命に立っている。