五輪成功後に国政復帰狙う小池都知事 

菅首相と「悪魔の同盟」へ

 

NEWSポストセブン  

 

 

 小池百合子・東京都知事が過労で緊急入院したことに、政界では揣摩憶測が飛び交っている。折しも、入院した6月22日は東京都議選(定数127。7月4日投開票)の告示日直前、

東京五輪開会式の1か月前と政治的に重要なタイミング。

しかも、都議選では小池氏の率いる都民ファーストの会が大苦戦している。

 

本誌・週刊ポストが入手した自民党東京都連の情勢調査では、前回都議選で大勝(55議席)した都民ファは13議席へと「42議席減」の大惨敗、逆に前回大敗した自民党は23議席から51議席に躍進し、公明党(16議席予測)と合わせて自公で過半数を超えると予測している。

 

 小池氏にとって自公に過半数を握られれば都議会運営が困難になり、4年間苦汁をなめてきた都議会自民党が五輪後に小池叩きの動きを強めるのは間違いない。

 

 自民党二階派幹部は、知事公務復帰後の小池氏の動きをこう見る。

 

「小池が悪あがきしても都議選の劣勢は簡単に覆せそうにないし、都民ファの候補を応援すればするほど都議会自民党の恨みを買う。

 転んでもただでは起きない小池は、この際、体調がすぐれないことを理由に都議選から距離を置き、都民ファ惨敗のダメージを最小限にするつもりではないか。五輪が終われば小池は都知事の地位に未練はない。都政で苦労するより、五輪成功の実績を手に国政復帰を窺っている」

 

 驚くのは、小池氏の国政復帰の橋渡しをするのが、“犬猿の間柄”とされてきた菅義偉・首相その人だと見られていることだ。

 

 菅首相は第2次安倍政権の官房長官時代、野心家の小池氏を警戒して重要ポストから干し上げ、2人の関係は極度に悪化した。

 だが、小池氏はその菅氏が首相に就任した直後の昨年9月に官邸に出向いて“手打ち”の会談を行ない、その後も昨年12月と今年5月に官邸で会談、小池氏が入院する直前の6月19日には初めてプライベートな空間である「首相公邸」で約1時間にわたって五輪の運営について話し合った。

 

「総理の小池に対する評価が変わったのは最近です。パフォーマンス好きの小池が国民の五輪批判に便乗して“五輪中止をぶち上げるんじゃないか”という心配があったが、小池は軽挙妄動せずに総理の開催方針についてきた。いまや2人は五輪では運命共同体。警戒心の強い総理は小池を決して信用はしていないが、利用できるカードと考えている」(菅側近)

菅―小池の関係が「政敵」から「運命共同体」に変質したという指摘だ。

 

 国政転出を窺う小池氏に都合がいいことに、次の総選挙では東京に自民党の空白区ができた。公選法違反で議員辞職した菅側近の菅原一秀・元経産相の東京9区だ。小池氏の衆院議員時代の選挙区(東京10区)の隣で、地盤も重なる。

 菅原氏は「3年間の公民権停止」処分が確定して次の総選挙に出馬できないため、公認権を持つ菅総裁と、小池氏と関係が良い二階俊博・幹事長のOKさえあれば自民党公認で出馬できる状況だ。

 

安倍や麻生より小池頼み

 では、一方の菅首相にとって小池氏を利用する目的は何か。

 

 かつて自民党幹事長だった野中広務氏は、小渕政権の危機に臨んで「悪魔にひれ伏してでも」と政敵だった当時の小沢一郎・自由党党首との連立に踏み込み、自自連立で政権を安定させた。 菅首相にも、政敵の小池氏と同盟を組まざるを得ない事情がある。首相の生存戦略は、五輪をなんとしても成功させ、9月の自民党総裁選を実施せずに「無投票再選」に持ち込むことだ。

 

 自民党では目下、総裁選をにらんで安倍晋三・前首相、麻生太郎・副総理、甘利明・党税調会長の3Aトリオと二階幹事長が、それぞれ次々に議員連盟を立ちあげて議員を囲い込み、勢力拡張に火花を散らしている。

 

「昨年の総裁選では二階氏の支援で総理の座についた菅首相は、今回は数の力に勝る3Aに接近することで無投票再選に持ち込みたい。だが、3Aの狙いは政権運営の主導権を二階氏から奪うことにあり、菅政権を支えるつもりはない。

 

 陣営に有力な総理・総裁候補がいないからやむを得ず菅首相を傀儡にして一時的に“無投票再選させてやる”と菅首相に甘くささやいているだけだ」(麻生派議員)

 

 一方の菅首相もそれを重々承知している。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が語る。

「3Aはコロナの感染がさらに拡大したり、総選挙に負ければ容赦なく菅首相に全責任を押し付けて退陣させるでしょう。 菅首相は3Aに依存することの危険性をわかっているから、良くも悪くも知名度の高い小池氏を陣営に取り込みたい。“オレを引きずり下ろすなら、子分の河野太郎・行革相、小泉進次郎・環境相を小池と組ませて対抗するぞ”と小池カードで3Aを牽制して政権の延命を図ることを考えている」

 

 小池都知事は菅首相が望む「五輪強行開催」と引きかえに都民ファーストを切り捨てて国政復帰し、菅首相はその小池氏を利用して政権延命を図る。国民の安全安心を犠牲にして互いの「政治生命」を保つワクチンを打ち合う―まさに“悪魔の同盟”のシナリオではないか。

 

 退院後の小池氏の動きに要注意である。

※週刊ポスト2021年7月9日号

 

毒を以て毒を制す・・・か?