■おそるべしコインコミュニティ

 

先週初めてAmebaにコイン記事をアップしたのですが、いきなりアクセス数が過去最高をクリアしたので驚きました。恐るべし、コインコミュニティ! Yahooの時は食事記事が一番受けたんだけどなぁ??

 

というわけで今週も書きます。

コイン記事はおそらく週一くらいになるかと思います。Yahooで掲載したコインも写真を撮り直すなどして記事にするので悪しからず。

 

■ゴルディアヌス3世のテトラドラクマ劣位銀貨(A.D.238-244)

 

 

 

 

シリア属州、オロンテムのアンティオキア鋳。

表面は、ΑΥΤΟΚ Κ Κ Μ ΑΝΤ ΓΟΡΔΙΑΝΟ СΕΒ、鎧を付け、衣をまとったゴルディアヌス3世の右向きの胸像。

裏面は、ΔΗΜΑΡΧ ΕΣΟΥСΙС、左向きで直立する鷲、嘴に花輪、下にSC。

※オロンテムのアンティオキア

アンティオキアは複数存在するが、オロンテス河畔にあるアンティオキア、シリア属州の州都。

※ΑΥΤΟΚ

Autokrator(アウトクラトール)。ローマでいうインペラトル(軍司令官)のギリシア語版。

※Κ Κ

??。おそらく、後ろのものはΚΑΙСΑΡ(カエサルのギリシア語表記)。

※Μ ΑΝΤ

おそらく、Marcus Antoniusの略。

※ΓΟΡΔΙΑΝΟ

ゴルディアノ(=ゴルディアヌス)。

※СΕΒ

他のコインではСΕΒΑСと表記される例も。Augustos(尊厳者)のギリシア語版であるSebastos(セバストス)。なお、ここで使われる「С」は「Σ」のことであって「Γ」ではない。

※ΔΗΜΑΡΧ

デモ(民衆)+アルケー(最初)で、おそらく、ローマのPrinceps(第一人者)のギリシア語版。

※ΕΣΟΥСΙС(実際の文字は「Υ」ではなく「V」)

??

※S C

Senatus Consulto。元老院の法令による。

 

今回は写真を撮るのにも、調べものをするのにも苦労しました。AWの落札品になります。

 

ゴルディアヌス3世は軍事皇帝時代の人物で、この時代としては在年数がやや長く手に入りやすいコインです。

私もゴルディアヌス3世のアントニニアヌス銀貨はすでに持っていたのですが、これはタイトルにあるようにテトラドラクマ劣位銀貨で、属州で発行されたもの。劣位銀貨と書きましたが、ビロン(合金)テトラドラクマと表記されることが多いです。(ただしビロンbillonはフランス語を語源とした単語なので当時の呼称ではありません)。

 

ローマのデナリウスやアントニニアヌスは小さいのですが、これらはヘレニズム時代のテトラドラクマより小さいもののやや大きめで厚みもあります。

 

 

こういう姿勢の鷲は近代化にもよく描かれている気がするのですが、どうでしょう。

 

ちなみに、ところどころに黄緑色の付着物らしきものが見えますが(表面の9時の場所とか)、拡大してみると粉を吹いたようになっていて、銅錆だと思われます。

 

■ゴルディアヌス3世とは?

 

軍人皇帝時代は外敵の侵略などによってローマが混乱した時期であり、属州の軍団の擁立によって皇帝が乱立し、235年~284年までの間に20人以上の皇帝が生まれます(僭称を含めると40人以上とか)。

ゴルディアヌス3世は、238年に13歳で擁立され、ササーン朝ペルシアとの戦いで244年に没、この時、19歳でした。

軍人皇帝時代は、ローマコインのジャンルとしては人気があるわけではないので(有名人少ないし)、幾人かの皇帝は比較的手頃に入手できるのですが、何しろ皇帝が乱立しているもので在位期間が短い人は見かけることすらありません。

ゴルディアヌス3世の在位期間は約6年弱ですが、この時代にあっては充分長い在位期間であるため非常に手に入りやすいコインです。

 

■コイン発行の背景

 

ここからは想像混じりです。

 

このコインはすでに書いたように属州で発行されたコインです。ローマでは属州における自治が認められていて独自の貨幣の発行も許されていました(ただし、皇帝におもねるため肖像を刻む)。

ただし、今回のコインについて言うと、「SC」という文字が刻まれています。「元老院の法令による」あるいは「元老院の決議による」と訳した方が良いのかもしれませんが、いずれにしろ属州自治政府が発行したというよりも、ローマ帝国が発行したと考えた方が良いでしょう。

 

前節で書いたようにゴルディアヌス3世は、治世の後半をササーン朝ペルシアとの対決に当てており、そのササーン朝が狙った都市こそアンティオキアになります(シャープール1世の「シリア・メソポタミア戦争」)。

※シリア・メソポタミア戦争

242~260年。シャープール1世がメソポタミアに侵攻し、これに対応する形でゴルディアヌス3世が親征する。243年のレサエナの戦いではローマ軍が勝利するが、翌244年のミシケの戦いでローマ軍は敗北し、この最中にゴルディアヌス3世は陣没した。

 

ということで、ゴルディアヌスが当地に滞在した時に、発行されたコインと推測しています。

 

《データ》
カタログ番号:Sear3779類似、BMC 494?

年代:A.D.238-244

発行枚数:-
重量:11.7g

材質:劣位銀
状態:XF(Strike:4/5, Surface:4/5)
※《GREEK IMPERIAL COINS AND THEIR VALUES》(著:David R Sear、発行:Spink)より。