かみうち内科クリニック

かみうち内科クリニック

令和元年7月8日に京都市二条駅前に開業しました。院長神内謙至です。糖尿病・1型糖尿病関連の記事を中心につづっていきたいと思います。
私自身、15歳発症の1型糖尿病です。
公式サイト http://kamiuchidm-clinic.com/

一方、空腹時の場合、血中インスリンは低濃度になります。そうすると、軽い運動では筋肉は脂肪酸をメインに利用するため、血糖は下がりにくいのです。当然、強度が強く長期間になると、低インスリン濃度下でも筋肉は次第にブドウ糖を利用する割合が大きくなり、血糖は下がってきます。

 

まとめますと、食前の有酸素運動では、筋肉は脂肪酸を利用する割合が高いため、血糖は下がりにくく、食後の有酸素運動では、筋肉はブドウ糖を利用する割合が増えてくるため、血糖は下がりやすくなるのです。

運動をすることは大変健康にいいことなのですが、糖尿病で低血糖のリスクのある薬剤(スルホニル尿素薬やグリニド薬)やインスリンを使用していると、運動すると、どうしても低血糖のリスクが付きまといます。低血糖を起こすのはやはりいいことではないのです。

食前の有酸素運動は、血糖が下がりにくいので軽い運動を短期間であれば問題は少ないです。ただ、長期間運動をすると食前でも低血糖の可能性が出てきます。食後は運動をしていなければ血糖は上昇するので、その時間帯に有酸素運動をすることは血糖コントロールのためには大変有効です。しかし、運動しすぎると低血糖のリスクが高くなるので注意が必要となります。

以上のことは、1型でも2型でも同じことが言えますが、1型の場合はインスリン自己分泌がないので血糖変動が2型よりも顕著となるのです。

有酸素運動の場合、運動による血糖の動きは食前と食後で大きく変わります。

 

運動をすると、筋肉は当然エネルギーを必要としますが、そのエネルギー源は脂肪酸とブドウ糖となります。軽い運動では筋肉は脂肪酸をエネルギー源とすることがほとんどで、運動負荷が強まると、エネルギー源としてブドウ糖を利用する割合が増えてきます。

しかし、食後の場合、血液中のインスリン濃度が高まります。これは自己分泌のある2型糖尿病でも、インスリンが枯渇している1型糖尿病でも同じです。1型糖尿病の場合は自分で追加インスリンを注射するからです。高インスリン濃度下では、運動時に筋肉はブドウ糖をエネルギーとして利用する割合が増えてきます。つまり、食後で高インスリン濃度の状況では、軽い運動であっても、筋肉は多くのブドウ糖を利用し、消費するのです。つまり血糖は強く低下するのです。

具体的な運動療法として、糖尿病診療ガイドラインには以下のように書かれてあります。
 
有酸素運動は、中強度で週に150分かそれ以上、週に3回以上、運動をしない日が2日間以上続かないように行い、レジスタンス運動は、連続しない日程で週に2~3回行うことがそれぞれ勧められ、禁忌でなければ両方の運動を行う。
日常の座位時間が長くならないようにして、軽い運動を合間に行うことが勧められる。
 
これを読んでどう思われるでしょうか?これを定期的に続けている糖尿病患者さんは多くはいないと思われます。相当ハードルの高いステートメントになっています。その理由として、これぐらいの運動をすることで、糖尿病合併症のリスクが改善するというデータがあるためです。その結果、ガイドラインにはこのように書かざるを得ないのです。

一方、1型糖尿病に対するステートメントでは、以下のようになっています。

 

1型糖尿病患者では、長期的な運動による血糖コントロール改善効果に一定の見解が得られていないが、心血管疾患のリスクファクターを改善させ、生活の質(quality of life: QOL)を改善させる。

推奨グレードB 合意率100%

 

1型糖尿病の場合、運動による血糖変動が強いため、運動前、運動中、運動後に補食やインスリンの減量が必要となり、技術を要します。低血糖のリスクが増えるため、低血糖を起こした時に食べ過ぎてしまうとその後血糖は上昇し、低血糖の恐怖感から運動することを躊躇してしまうことも多いです。このようなことから、1型糖尿病の場合、運動によってHbA1cが低下するという報告は乏しいのです。しかし、進行した合併症がなく、血糖コントロールが良好であれば、インスリンや補食を調整することにより、いかなる運動も可能です。

 

日本糖尿病学会が提供する糖尿病診療ガイドライン2019には運動療法として以下のようなステートメントがあります。まず、2型糖尿病については…

 

2型糖尿病患者に対する有酸素運動やレジスタンス運動、あるいはその組み合わせによる運動療法は、血糖コントロールや心血管疾患のリスクファクターを改善させる。2型糖尿病患者に対する有酸素運動とレジスタンス運動はともに単独で血糖コントロールに有効であり、併用によりさらに効果が高まる。

推奨グレードA(合意率100%)

 

レジスタンス運動とは筋トレのような無酸素運動のことです。

このように2型糖尿病治療としての運動療法は非常に好ましいとされています。このことは皆さん、よく理解していただけるでしょう。

 

一般的に体重が減るということは健康にいいと考えられています。しかし、体重が減っても脂肪量ではなく、筋肉量が減ってしまうと本当に大丈夫なのでしょうか。

 

この報告は、健康な男女に対して、BMI(肥満度)が増えた場合、変わらない場合、減った場合に分け、死亡率を見たことに加えて、もう一つの軸、心肺機能の増減を加えて、二つの軸で死亡率を見たものです。

下の図より、心肺機能が増えた方や変わらない方は、BMIが減ったほうが死亡率は下がる傾向になるようですが、実は死亡率が最も高かったのは、BMIが減り、さらに心肺機能が下がった方のグループなのです。つまり、このグループは筋肉量が減ったために体重が減ったと考えられます。

運動の重要性が明確にわかる報告だと思います。

 

最近、高齢者糖尿病の方に尿糖排泄薬であるSGLT-2阻害薬の処方を勧める医師が多くなってきています。高齢者でも食事量が十分あり、日常的に運動をされている方は大丈夫だと思いますが、食事量の少ない方、ほとんど運動されていない方、例えば心臓の疾患のある方、脳梗塞後の方などはSGLT-2阻害薬を内服することで、筋肉量が減ってしまうということになりかねません。高齢者糖尿病の方にSGLT-2阻害薬の服用は注意が必要だと思います。

(Lee DC, et al. Circulation. 2011 124:2483-90.)

 

 

 

前回記事でアクトスは膀胱癌のリスクがわずかにあるという報告を説明しましたが、この報告はアクトスが心血管疾患予防できるかどうかを検討したものです。

糖尿病・高血圧・脂質異常の治療をできる限り行ったグループと、それに加えてアクトスを投与したグループで検討をしました。

結果

納所中既往例では脳卒中再発抑制効果(-47%)、を認め、

心筋梗塞既往例では急性冠動脈症候群抑制効果(-37%)、心筋梗塞再発抑制効果(-28%)を認め

総死亡・心筋梗塞・脳卒中の再発抑制を認めました(-16%)

降圧剤や脂質異常薬など心血管疾患予防効果が示されている薬があらかじめ投与されている患者にアクトスを上乗せした時の効果を検討しており、なかなかむつかしいと思われていましたが、結果としてこれだけの心血管疾患予防効果が認められたのは大きいです。

 

その後、アクトスによる膀胱癌のリスクがわずかに増えるという報告が新聞に載るなどして、アクトスの新規処方はかなり少なくなりました。また、アクトスは体重増加することがかなり多く、使いにくい薬でもあります。それでも、アクトスの心血管疾患予防効果は今でもなお、色あせることはありません。

 

(Dormandy JA. et al.: Lancet, 366, 1279, 2005 / Erdmann. E. et al.: JACC, 49, 17, 1772, 2007 / Wilcox R. et al.: Stroke, 38, 865, 2007)

 

 

フランス行政当局がフランス国内の保険データベース内の約150万人の糖尿病患者(40~79歳)に関する2006年~2009年のデータを用いて、膀胱癌等の癌発症率を検討した疫学研究 (後ろ向きコホート研究)です。全体解析において、膀胱癌は糖尿病薬であるアクトス投与患者(約16万人)では175例、非投与患者(約134万人)では1,841例にみられ、アクトス投与患者で膀胱癌の発症率が高くなりました(ハザード比1.22、95%CI 1.05 - 1.43)。また、アクトス投与期間が長くなると膀胱癌のリスクは高まり、投与期間12ヵ月以上ではハザード比は1.34(95% CI 1.02 - 1.75)でした。 
分かりにくいですが、まとめますと、米国の2型糖尿病患者さんの場合、アクトスによって1万人に1-2人程度膀胱癌が増えたようです。このため、アクトスを処方開始するときには主治医は必ず、膀胱がんのリスクについて患者に話さないといけません。そのため、アクトスを処方する頻度がどうしても落ちてしまうのです。
 

インスリン治療を行うときにはこの4つの視点

1. 血糖コントロール

2. 低血糖

3. 体重

4. QOL

を常に考えながら進めていくことが必要と言われています。

 

血糖コントロールを考えることで低血糖予防につながりますし、低血糖を頻回に起こしてしまうと補食が増え体重も増えてきます。インスリン治療を積極的にしようと思える状態はQOLが高いと考えられますが、QOLが高くなると血糖コントロールを積極的に行う気持ちも強くなってきます。血糖コントロールがよくなっても体重が増えてしまうと、残念に思ってしまい、QOL低下につながる恐れが出てきます。インスリン注射回数が増えること、それ自体はQOL低下につながる可能性はありますが、その結果、血糖コントロールがよくなってくると、インスリン治療に対する印象もよくなりQOLは低下しないかもしれません。

つまり、この4つの視点は、それぞれが互いに密接に関わりあっているのです。

私は、糖尿病専門医としてインスリン治療を行うときに、この4つの視点を常に考えるようにしています。

 

4. quality of life (QOL)

2型糖尿病治療において、食事や運動に加えて内服薬を使っている場合には、自己注射に対して強い抵抗感を持つことが多いです。また、特に高齢者など、注射手技の習得に問題のある方は、自分で打てないという問題点もでてきます。そのためにインスリンの製薬会社や注射針の製造会社は注射ができる限り痛くないように、打ちやすいように工夫がなされてきました。そのため、今の自己注射は昔と比べると大変容易に打つことができるようになりました。

それでも、自己注射の治療をしている場合、日常生活で問題が出てくることが多いです。針の恐怖感や注射時の痛み、注射の面倒さについては理解しやすいですが、社会生活において、自宅外ではどこで注射するのか、人に知られたくないという気持ちもあります。注射しなければならないぐらい糖尿病が悪くなってしまったという絶望感を持つ人もあります。自分が自己管理をしてこなかったからこんなになってしまったと罪悪感を持ってしまう場合もあります。また、自己注射を始める場合、家族に心配をかけてしまうのではないかと不安に思うこともあるようです。旅行に行くときにどうすればいいかと不安に思うこともあります。低血糖の不安感も内服薬の時より強くなるようです。

インスリン注射を行うときに、このような負の気持ちでQOLが低下してしまうことがあります。そのため、医療者はその不安感を取り除くためできる限り話し合っていく必要があります。

また、自己注射を行っている体験者から話を聞くことはその不安感を軽減させるのに有効だとされています。