「長い冬」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

谷口由美子:訳

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第6巻。

 

大草原に新しくできた町、デ・スメットを長く厳しい冬が襲い、猛吹雪のせいで汽車が来なくなり、町は孤立してしまった。燃料も食料も届かなくなった町の人々は、飢えと寒さと戦いながら、汽車が動き出すまで生き延びようとする。

ローラ13歳のから14歳まで、暑い夏から始まり、10月から4月まで吹雪が続いた長い冬、再び汽車が動き出した5月までを描いた物語。

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・自給自足の生活を読みたい人。

・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。

・DIY・ハンドメイドが好きな人。

・極限状態で生きる人々の物語を読みたい人。

 

 

★★★〈登場人物〉★★★

(インガルス一家)

ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。

メアリ:長女。

キャリー:三女

グレイス:四女

とうさん(チャールズ)

かあさん(キャロライン)

 

アルマンゾ・ワイルダー:町の近くに農地を持ち、兄ロイヤルと飼料店を営む青年。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

第1章:干し草づくりは日の照るうちに

暑い夏、ローラは初めてとうさんの干し草づくりを手伝った。ある日、頑丈なジャコウネズミの巣を見つけたとうさんは、厳しい冬になりそうだと言った。くる冬が寒いほど、ジャコウネズミは巣の壁を厚く頑丈に作るのだという。

 

第2章:町へ買い物に

とうさんの草刈り機の刃がかけてしまったため、ローラとキャリーは刃を買いに町へ。

 

第3章:秋のおとずれ

10月の最初の日に霜がおり、干し草づくりをやめて畑の作物の取り入れを始めた。

かあさんは青いトマトからピクルスを、青いカボチャからアップルパイと同じ味のパイを作った。

 

第4章:十月の猛吹雪

第5章:嵐のあと

第6章:インディアン・サマー

10月だというのに猛吹雪になり、二日二晩も荒れ狂った。

嵐の後、頭が氷と雪で地面に凍り付いてしまった牛の群れがいたので、とうさんが氷をとってやった。干し草の中には、嵐から逃れるために水鳥やウサギが隠れていた。

水鳥は、天気のいい日にシルバー・レイクに放した。天気や動物たちの様子から、かつてないほど厳しい冬が来る、ととうさんは言った。

 

第7章:インディアンの警告

第8章:町に落ち着いて

町にインディアンの老人がやってきて、猛吹雪が7ヶ月続く非常に厳しい冬が来る、と教えてくれた。とうさんは町に建てた頑丈な家へ移ることに決め、一家は農地小屋から町へと引っ越す。

 

第9章:キャップ・ガーランド

第10章:三日続きの猛吹雪

ローラとキャリーは町はずれの大草原の中に建っている学校へ通い始める。同じく学校に通うキャップ・ガーランドは、どこか人を惹きつける魅力のある少年だった。

ある日、授業中に突然吹雪が始まった。ローラ達生徒と先生は、猛烈な吹雪の中を歩いて町へ帰ることになった。

 

第11章:とうさん、ヴォルガへ行く

線路の除雪作業の為、とうさんは町の人たちとヴォルガへ向かう。翌日帰ってきたとうさんは、お客様を連れてきた。インディアン・テリトリーに住んでいた時の隣人エドワーズさんだった。

 

第12章:とりのこされて

第13章:われら 嵐をのりこえて

第14章:ある晴れた一日

第15章:汽車がこない

第16章:すばらしい天気

良く晴れて風も穏やかな土曜日、突然陽の光が消えて嵐が襲ってきた。窓の外は一面真っ白で、他の家の明かりどころか、二階の窓から戸口に立つとうさんの姿も見ることもできない。石炭を燃やしても部屋は冷え切っている。

吹雪と積雪のため汽車が町に来られなくなり、町の物資は不足した。店はほとんど品物を売り尽くし、塩漬けの豚も石炭も灯油も尽き、石炭がくるまで学校も休みになった。

良く晴れた日には、とうさんは農地と町の家を往復し、家畜の餌にする干し草を運んだ。

 

第17章:種小麦

アルマンゾは部屋の中に内壁を作り、壁の内側に種小麦を隠した。町の小麦が少なくなり汽車がくる見通しがたたない状況で、たとえ小麦が値上がりしても、春に蒔く種小麦を売りたくなかったのだった。

 

第18章:メリー・クリスマス

ローラ達はみな、家族へのクリスマスプレゼントを用意した。

キャリーに毛糸でクロスステッチした額縁、メアリにペティコートの裾に縫い付ける手編みのレース、かあさんには厚紙で作って刺繡した抜け毛入れ。とうさんへのプレゼントは、店で見つけた素敵なズボン吊り。パイもケーキも作れなくても、楽しいクリスマスだった。

石炭がなくなったため、とうさんは薪のかわりに、干し草をねじって木の棒のように固くよった干し草の棒を作った。

 

第19章:意志さえあれば

ローラも干し草棒作りを手伝った。

小麦粉がなくなったため、とうさんは町へ買いに出かけたが、町にはもう小麦粉がなかった。ワイルダー兄弟の最後に残った小麦を買い、その小麦の粒をコーヒーひきでひいて粉にして黒パンを焼いた。

ランプの灯油も切れたので、かあさんは車軸油とボタンと端切れと古い皿でボタン・ランプを作る。

 

第20章:レイヨウがきた!

町の近くにレイヨウの群れがきたので、町の男たちはレイヨウを狩りに出かけた。

 

第21章:厳しい冬

1月1日、鉄道会社は春まで汽車を走らせないことに決めた。猛吹雪で線路がすぐに埋まってしまうからだった。

 

第22章:寒さと暗闇

第23章:壁の中の小麦

第24章:ほんとうにおなかがすいていないの

干し草棒を作り、コーヒー引きで小麦をひき、黒パンとジャガイモだけの食事をとり、時折吹雪がやむと、とうさんは干し草を運び、ローラ達は洗濯をする毎日。風と寒さと暗闇にみな疲れ切ってしまい、ローラは半分眠っているように頭がぼんやりして、お腹もすかなかった。

2月の半ば、とうとう小麦が尽きたので、とうさんはアルマンゾの種小麦を売ってもらった。

 

第25章:自由と独立

第26章:ひと息つく間

第27章:毎日の糧をもとめて

町の南へ30kmほど言ったところに去年小麦を収穫した男がいる、といううわさがたった。町の人を飢えから救うため、アルマンゾとキャップ・ガーランドはその男を探しに行く。2人は何の目印もない真っ白な雪原をそりで走り続け、とうとう去年小麦を収穫した男の家を見つけ、60ブッシェルの小麦を買い取った。

 

第28章:四日間の猛吹雪

第29章:最後の一キロ

ローラ達は小麦を探しに行ったアルマンゾとキャップを心配した。2人が町を出た日の夕方、再び嵐の雲が近づいてきた。嵐の雲と暗闇が迫る中、アルマンゾとキャップはようやく町の明かりを見つけ、小麦を町に持ち帰ることができた。

 

第30章:ぜったい負けるもんか!

第31章:汽車を待つ

3月がすぎ4月になっても嵐はやってきたが、とうとう春が訪れた。しかし線路に降り積もった雪が凍り付いているため汽車はまだ走れない。

5月最初の日、ようやく汽車が町にやってきた。

 

第32章:クリスマスのたる

第33章:五月のクリスマス

汽車が来て、教会の人たちが昨年送ってくれた、クリスマスの贈り物が詰まった樽が届いた。

町の店には食料品が入荷し、ローラたちはボーストさん夫婦を招いて、5月にクリスマスのごちそうを作ってお祝いした。

 

 

 

★★★〈サバイバル色の濃い物語〉★★★

前作「シルバー・レイクの岸辺で」にてインガルス一家が落ち着いた、大草原の中に新しくできた町デ・スメットには次々に人が移住し、雑貨店・飼料店・金物店・ホテル・酒場などの店が並び、駅舎があって汽車が通る、人口80人くらいの町になっています。

 

そんな小さな町を襲った、10月から4月にかけて断続的に猛吹雪が吹き荒れる厳しい冬を乗り越える物語です。シリーズの中でもっとも命の危険に晒される、サバイバル色の濃い物語です。

 

 

★★★〈厳しい冬の訪れを察知したもの達〉★★★

インガルス一家の農地は町に近い場所にあり、農地に建てた小屋に住んで農業に励む暑い季節から物語は始まります。

とうさんは、動物たちの異変やインディアンの老人の警告で、長く厳しい冬が来ることを知ります。町にもとうさんが建てた頑丈な家があり、厳しい冬を越すために一家は町の家へと移ります。その後、警告通りに長く厳しい冬が訪れます。

 

冬に備えて、とうさんが見たこともない程頑丈な巣を作るジャコウネズミ。鳥が一羽もシルバー・レイクにおりず、空のとても高いところを南へ飛んで行く光景。生き物がみな隠れてしまって姿が見えない大草原。

気にするほどもことでもないけれど、どこか気味の悪さを感じさせる描写が続きます。

 

インディアンの老人は、長くこの土地で生きてきた経験から厳しい冬が来ることを予測していましたが、動物達は何をもって厳しい冬が訪れることを知るのか、本当に不思議です。

 

 

★★★〈一冬分の蓄えがなかった町〉★★★

「こんなふうに東部に何でも頼っているから、汽車がこないとすぐ食料不足になるんだな」

(196ページ)

 

厳しい冬の一番の問題は、線路が雪に埋まって汽車が止まり、町に物資が供給されなくなったこと。町の店は空っぽになり、食料も灯油も石炭も尽き、町の人は寒さと飢えに襲われます。

汽車が止まったことに加え、大自然の恵みを得る「自給自足の暮らし」から、必要なものは店で購入する「町の暮らし」へ変化していったことも、追い打ちをかけたのだと思います。

 

インガルス一家は今まで、冬を越すための食料を貯蔵し、冬の間も狩りや薪割りをしていました。しかし町の近くや町の中で暮らすようになってからは、一冬分の食料を蓄えるという描写がなくなり、必要なものをその都度町で買いにいく場面が増えました。

それに加えて、開墾したばかりの畑では収穫量が少なく十分な食料を収穫・貯蔵できない、人間が住みついた土地には野生動物がいなくなり狩りもできない、薪にする木が近くにない、という環境も理由にあげられると思います。

 

お金はかかっても、食料も石炭も必要なものが何でも手に入る町の暮らしを一家は気に入っていました。しかし物資の供給が途絶えたことで、町に残った物資が値上がりして買うことが出来なくなり、やがて物資が尽きると、お金があっても手に入れられないという状況に陥ります。

普段は問題なく稼働しているものが、何かがあると止まってしまい、生活に大きな影響が出る。生活を支える物流の大切さと、その脆さがよく分かりました。

 

 

★★★〈あるもので工夫する一家〉★★★

「意志あれば、道あり」(277ページ)

「今あるものの文句をいってはいけません。いつも、それがあるのを幸運だと思うようになさい」(344ページ)

 

インガルス一家はあるもので工夫します。

脱穀していない小麦をコーヒーひきで粉にし、ミルクやイーストがなくてもサワー・ドウ(粉とぬるま湯だけで作るすっぱいパン種)でパンをつくる。

石炭や薪の代わりに、干し草をかたくよった棒を作り燃料にする。

車軸油とボタンと端切れと古い皿でランプを手作りする。

 

干し草をよって手は傷だらけになり、食事を切り詰め、飢えと寒さで皆体力と気力を失っていきますが、それでもお互いを奮い立たせて誰一人欠けることなく冬を乗り越えます。

 

 

★★★〈危険を冒して町を出た青年、アルマンゾとキャップ〉★★★

町の危機を救ったのが、この物語のもう一人の主役といえるアルマンゾ・ワイルダーです。

アルマンゾは21歳(年をごまかしていて本当は19歳)で、町の近くに農地を持ち、兄ロイヤルと飼料店を営んでいます。

ワイルダー兄弟は、父親の牧場から持ってきていた食料とあらかじめ買っておいた食料・石炭が十分にあったため、生活に困ることはありませんでした。しかし町に飢えている人達がいることを知ったアルマンゾは、「町の南30kmのところに、小麦を収穫した男がいる」という噂を頼りに、キャップ・ガーランドと小麦の買い付けに行きます。

 

吹雪の合間に、どこにいるのか、そもそも本当に存在するかもわからない男を探す。大草原の真ん中で猛吹雪に遭えば命を落とす可能性がある危険を冒して、2人が買い付けに行かなかったら、小麦を手に入れることが出来なかったら、冬を越えられずに命を落とす人が出たでしょう。

 

 

★★★〈長い冬を生き抜いた力〉★★★

「あるものでやっていくしかない」と工夫して乗り切ったインガルス一家。

危険を冒して糧を得たアルマンゾとキャップ。

これらが実話なのが、本当に驚きです。

 

彼らを見て思ったのは、便利さを得る代わりに、それが失われた時の混乱が大きくなるということ。

そして危機的状況で最後にものを言うのは、一人一人が持つ知識や知恵、技術や行動力、精神力といった「力」や、先を見越して用意しておく「もの」だということです。

 

「西部では、いろいろな困難に立ち向かうのに、忍耐と根気が必要なのさ」(314ページ)

ととうさんは言います。大自然の中で生きた開拓民の逞しさが分かる言葉です。

もし自分がローラ達と同じ状況に置かれたら、おそらく厳しい冬に耐えられたかっただろう、と思います。

 

「時代は進みすぎているよ。すべてがとてつもない早さで進んでしまった。鉄道、電信、灯油、石炭ストーブ、こういうものはあれば便利だが、問題は、人々がそれに頼りすぎてしまうという点だね」(272ページ)

 

ローラ達が生きた時代よりはるかに便利になり、お金があればいつでも何でも手に入る今、もし「いつでも手に入るもの」の供給が滞った時に、どうにかする力は自分にあるのかな、と考えてしまいました。

 

「長い冬」と比べると本当に小さな事ですが、私の周りには裁縫ができる同年代の人がほとんどいなくて、布製品は市販品を買う人ばかり。「私なら手作りするのに」「手直しやリメイクをすればまだ使えるのに」と思うこともしばしばです。

感染症の流行した時に買いだめがが起きてマスクが店から消えた時には、私は手持ちの端切れでマスクを作りました。トイレットペーパーなどあらゆる物が消えた時は、自宅にストックがあったので困ることはありませんでした。

裁縫やっててよかった、備蓄しておいてよかった、と心底思いました。「必要なものはその都度買えばいい」という思考を持っていたら、大変なことになっていたと思います。

 

時代と共に、生きていく上で必要なスキルや環境も変わりましたが、ローラ達が異常に厳しい冬に襲われたように、「当たり前の日常」が失われる時はいずれやってくると思います。

未来は分からないものの、中には予想されている非常事態もあります。

使える武器は多い方が良いに決まっています。

この先何があったとしても、「長い冬」を乗り超えたローラ達のように、生きていくために必要なものを用意しておきたい、自分の引き出しを増やしていきたい、と思いました。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

恩地三保子:訳

福音館書店

 

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂