「大きな森の小さな家」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
恩地三保子:訳
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第1巻。
ウィスコンシン州の大きな森の丸太小屋に暮らす少女ローラは5歳。
インガルス家の丸太小屋以外に家は一軒も見えず、大きな木々に囲まれた小さな家とその周りがローラの世界の全てだった。
ローラ5歳から6歳まで、冬が訪れる前の食料作りから始まり、次の冬の始まりまでの一年間、大きな森の中での一家の生活を描いた物語。
子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。
★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・自給自足の生活を読みたい人。
・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。
★★★〈登場人物〉★★★
メアリー:長女。
キャリー:三女
とうさん(チャールズ)
かあさん(キャロライン)
ジャック:賢いブルドッグ
第1章:「大きな森」の小さな家
冬に備えて食べ物を貯蔵する季節。シカ肉や魚、豚肉の塩漬け・燻製・ソーセージ等の保存食を作り、豚肉からラードを取り、野菜を採り入れ、小さな丸太小屋は食べ物でいっぱいに。
第2章:冬の昼と、冬の夜
昼間は森の中に罠を仕掛け、バターやパンを作り、掃除や洗濯、繕い物、アイロンがけなどの仕事。夜には暖炉の日を眺めながら遊んだり、とうさんから楽しいお話を聞いたり。
第3章:長いライフル銃
とうさんは狩りの名人。毎日ライフル銃を手入れし、暖炉で弾丸を作って銃に込めると、次はお話の時間。
第4章:クリスマス
おじさん、おばさん、いとこ達がインガルス家にやってきてクリスマスのお祝い。用意したごちそうとお菓子、雪の上にシロップを流して作ったキャンディー。
皆でたくさん食べて遊んで、翌朝目を覚ますと靴下の中には素敵なプレゼントが。
第5章:日曜日
日曜日は安息日。一番上等な服を着て、仕事も遊びもしてはいけない退屈な日。
第6章:二匹の大グマ
狩りで獲れた毛皮を売りに行ったとうさんと、家畜小屋へ行ったかあさんとローラが、大きなクマに遭ったお話。
第7章:砂糖雪
砂糖雪がふったら、たくさん砂糖がとれるしるし。「大きな森」のずっと遠くにすんでいるじいちゃんが、カエデの樹液からメープル・シュガーを作る季節。
第8章:じいちゃんの家のダンス
じいちゃんの大きな家に親戚が集まってダンスパーティー。とうさんのバイオリンの音楽、きれいに着飾った女の人達、山ほどのごちそうを食べて踊って、とても楽しい日。
第9章:町へいく
家族みんなで馬車に乗って、大きな森の小さな家から7マイル離れたぺピンの町へ。美しい湖も、町も、品物でいっぱいの店も、ローラが初めて見るものばかり。ローラにとって今までで一番素敵な日。
第10章:夏の日
お客さんが来たり遊びに行ったり、畑仕事、子牛やニワトリの世話、チーズ作りと、夏は忙しい季節。
ある日、とうさんが森で見つけた大量のはちみつを持って帰ってきてくれた。
第11章:刈り入れ時
麦刈りの季節。とうさんとおじさんがお互いに仕事を手伝い合って、おじさん一家がローラの家に来たり、ローラたちが家族でおじさんの家に行ったり。ある日とうさん達が暑い畑で忙しく働いていると、いとこのチャーリーがスズメバチに刺されてしまう。
第12章:すてきな機械
かあさんは麦わらを編んでとてもきれいな帽子を作った。
季節は秋になり、畑の野菜を採り入れ、カボチャを煮るのを手伝ったり、かあさんが皮むきとうもろこしを作ったり、仕事もおいしいものも楽しいこともたくさん。
ある霜の朝、脱穀機を持った脱穀人たちがやってきた。ローラとメアリーが初めて見る脱穀機は、脱穀を1日で終わらせてしまった。
第13章:森のシカ
もうすぐ冬。冬に備えて食料を貯め込み、家の寒さを防ぐ用意をする季節。そして子ジカが大きく育った季節になり、とうさんは狩りを再開する。
狩りに出かけたとうさんが、森の中で子ジカを連れた牝ジカに出会ったけど撃たなかったお話。
★★★〈森の中で自給自足の生活〉★★★
ローラたちが暮らしたのは手作りの丸太小屋で、電気もガスも水道もない、全てが手作業・手作りする時代。
針・糸・布・鍋・農具・砂糖・火薬など、どうしても作ることのできないものは町の店で買っていましたが、それでも生活していくには現在と比べものにならない労力が必要な、自給自足に近い生活でした。
電化製品など便利な道具のない時代、男性も女性も仕事は山ほどあり、幼いローラやメアリーも毎日かあさんの仕事を手伝いました。
★★★〈愛情に満ちた温かい家族〉★★★
農作業・家畜の世話・狩猟・大工仕事と外の仕事をなんでもこなす、バイオリンが得意なとうさん。料理・裁縫・パンやバター作りと家の中のことを何でもこなすかあさん。優しい両親と暮らすローラたち姉妹。
大自然の中での厳しい生活ですが、インガルス一家は温かい幸せに満ちています。
物語はローラの視点で語られるので、とうさん・かあさんの子ども達に対する愛情と厳しさが際立っていますが、とうさんとかあさんも深い愛情と絆で結ばれています。
「キャロライン、おまえがそばにいてくれれば、だれも飢え死になんかしないよね」
「そりゃあそうですね。でも、チャールズ、それは、あなたがこうして暮らしていけるようにしてくださるからですよ」
(203ページ)
2人で一緒に家庭を築いて守っていく覚悟。お互いを尊重し思いやり、頼りにしていること。
それがよくわかる会話です。優しく逞しいとうさんとかあさんは、本当に素敵な夫婦だと思います。
★★★〈素朴でおいしそうな料理の数々〉★★★
物語の大きな魅力は、出てくる料理がとてもおいしそうなことです。
例えばかあさんが用意したクリスマスのごちそうは、
・タマゴと牛乳と粉と塩でつくるパン
・インディアン式のライ麦パン
・スウェーデン式ビスケット
・塩づけブタと糖みつ入りの豆
・ヴィニガー・パイ
・干しリンゴ・パイ
・大きなつぼ一ぱいのクッキー
・糖みつと砂糖を煮つめて雪の上に流して作ったキャンディー
他にもひきわりトウモロコシの即席プディングにメープルシロップをかけたもの、カボチャや干しベリーのパイ、ピクルス、キャベツと肉の煮込みなど。どれも素朴でおいしそうなものばかりで、どの料理も食べてみたいと思う魅力があります。
★★★〈DIY・ハンドメイドの詳細な描写〉★★★
料理以外にもハムやソーセージ、ラード、弾丸、メープル・シュガー、バター、チーズなどを作る描写も詳細です。初めて知った道具もありますが、挿絵のおかげで「こんな道具でこうやって作るんだ」ととても分かりやすいです。
麦わら帽子作りなどは挿絵がなくても説明文だけで作り方が分かるので、材料があれば作ってみたいと思っていました。
★★★〈シリーズの中で、最も自給自足に近い生活〉★★★
「大きな森の小さな家」は、「農場の少年」(ローラの夫アルマンゾの少年時代のお話)を除くシリーズの中で、大自然の恵みを活かす描写が最も多い物語です。
第二巻以降、インガルス一家は大きな森を離れてあちこちへ移り住みます。新しい土地では家畜を飼えなかったり、果樹やカエデやミツバチの巣が近場になかったり、狩りの獲物が少ない土地だったりして、大きな森では自分たちで賄えていたものでも店で買ったり隣人から貰うことになります。
それでも店が家から遠かったり、経済的事情から買うことが出来ない時もあります。
住む土地によって移り変わる生活・食事もこのシリーズの魅力ですが、森・湖・畑・家畜という大自然の恵みを最大限に活かした、最も自給自足に近い生活が「大きな森の小さな家」です。
★★★〈不便なのに心惹かれる生活〉★★★
現代と比べれば途方もなく不便で娯楽も少ないのに、なぜこんなにも心惹かれるのか。
自然を身近に感じることが少なくなり、便利な市販品に溢れた現代では薄れてしまった、「大地に足をつけて自分たちの手で作り上げる」ということに憧れるのかもしれません。
厳しい大自然の中で、生活の全てを自分たちの手で作り上げ、家庭を築く。
毎日仕事をこなして生きていく。
ただそれだけのことですが、このシリーズには生きる喜びが溢れています。
現代とは正反対の環境で生きる人々の姿から、生きる喜びや幸せ、豊かさとは何か、と問いかけられている気持ちになる物語です。
★★★〈素晴らしい挿絵〉★★★
インガルス一家の物語は様々な出版社から刊行されていますが、ガース・ウィリアムズの挿絵がついた副音館書館・岩波少年文庫の本が一番おすすめです。
ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がローラの世界にぴったりで、バターづくりの道具や服装・生活用品などの絵がとても充実しているので、当時の暮らしぶりが良く分かります。
個人的に、古い時代の小説に現代的なイラストがついているのが好きではありません。なんだか物語の世界と絵が合っていない気がしてしまうのです。少女漫画風のイラストがついていると特に・・・
★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★
2・大草原の小さな家
3・プラム・クリークの土手で
4・シルバー・レイクの岸辺で
5・農場の少年
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
福音館書店
恩地三保子:訳
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6・長い冬
7・大草原の小さな町
8・この楽しき日々
9・はじめの四年間
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★
「わが家への道」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
谷口由美子:訳
岩波少年文庫
「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
谷口由美子:訳
求龍堂