松子 DVD「嫌われ松子の一生」
「ぜったい見に行くぞ~!」と力んでいたにもかかわらず、もたもたしているうちに映画の公開が終わってしまったこと(中には不入りを理由に打ち切られる場合も)が、私には極めて頻繁にありまして、この映画もそう。「嫌われ松子の一生」 でございます。近所のレンタル屋さんをなんとなくぶらぶらしていたら、「そういえば見逃していた」と思い出し、オリンピックの合間に見ましたです。

監督は「下妻物語」で評価を得た方なのかな。私は未見なので、 中島哲也作品は初めて。CGやアニメを駆使した、派手で凝った映像が見ものであることは事前に知っていましたが、ここまでとは思わなかった。2時間以上、鮮やかな色彩が「これでもか~! これならどうだ~!」という勢いで画面から吹き出してくる感じ。ほとんど花火です。

色彩だけじゃなく、お話が進むテンポも花火並み。学校の先生→風俗嬢→犯罪者→美容師→ヤクザの情婦と、ヒロイン松子の人生はあれよあれよという間に転落(?)。「なんでこうなるよ」と突っ込む間もなく、ストーリーがどんどん展開するの。見る人をつかんだまま考える間を与えない、というスピード感を可能にした脚本は、どんなふうに書かれたのでしょうね。興味をそそられます。

主演の中谷さんは、いわゆる汚れ役をやった、ということなんでしょう。でも、ですね、汚れて見えないんだな。メイクも衣装も演技も、その時々のお仕事に沿った「らしい」雰囲気に仕上がってるんですが、映画を見終わって思い返すと、汚さやくどさが残らない。清潔感が漂うといっては言い過ぎかもしれないけど、辛く重苦しいムードはありません。試しに松子の役を、若いころのヨシナガサユリあたりに置き換えて想像すると、中谷美紀の演技力と生物としての持ち味のようなものが見えてくるかも。

しょっちゅう画面に飛び出してくるポップな色合いの花々が、プリクラのフレームのように情景を縁取りながら、「映画は現実とこんなに離れているから、安心して見てね~」と監督の意図を強調している気が。こうした映像的な工夫以上に主演女優の力が、暗く切ないお話を大きく助けていると思いました。

特に、終盤の河原のシーンがいかったな~。中谷さん演じる松子は、「えええ~っ」と目が点になるような、ものすごい風体で登場して、遊んでいる中学生を諌めるんですが、その時の声がすごくいいの。ああ、助かった、という感じ(なんのこっちゃ、といういい方ですみません・笑)。あと、知らない女優さんでしたが、黒沢あすかさん演じる<沢村めぐみ>の姐さんぶりがかっこえかったです。

エレンディラ
「嫌われ松子の一生」 は、大好きっていうわけではないけれど、かなり好きな部類に入るですね。10年経っても忘れない気がする。頭の中の棚に整理するとしたら、長らくベストワンの位置にあった1983年の「エレンディラ」の隣あたり。左に公開時のチラシの画像を貼りましたが、この映画はノーベル賞作家ガルシア・マルケスの小説を、作家自身がシナリオ化し、リュイ・グエッラが監督した文芸作品なり。

ギリシア悲劇などを演じる本格派大女優イレーネ・パパスが、実の孫娘を娼婦に仕立てるという、無慈悲な遣り手婆のような役を怪演してます。悲惨ながらも幻想的なストーリーと、シュールな映像美が素晴らしい。ずっとDVDが欲しくて、思い出すたびアマゾンを検索してるんだけど、未だリリースされませぬ。ほんとに美しい映画なのになあ。残念です…。

一般人が到底及ばないレベルまで俗を極めれば、俗はある時から聖なるものに変化するといったらいいだろうか。「嫌われ松子の一生」 も「エレンディラ」も、そういう極端さが到達した異世界を描いていると思うです。ダークなファンタジーもしくは寓話といってもいいと思うけど、安易に教訓を探してはいかんでしょう。ざらりとした苦い味を時々思い出して、「あれはなんだったのだろう」とふと考えるのが、大人の寓話の楽しみ方のような気がするなあ。

*芋蔓本*
撮影時のエピソードが少し綴られている中谷美紀のエッセイ。
かなり大変だった様子がうかがえます。中谷美紀「ないものねだり」幻冬舎文庫
映画「エレンディラ」の原作は文庫本で入手可能。
ガブリエル ガルシア・マルケス「エレンディラ 」ちくま文庫

ないもの エレンディラ2