第10章129偈
すべての者は暴力におびえ、
すべての者は死をおそれる。
己が身をひきくらべて、
殺してはならぬ。
殺さしめてはならぬ。
中村元博士訳
解説
この句もまた易しい言葉で翻訳されておりますので理解しやすいと思います。
「己が身にひきくらべて」とは、「もし自分が暴力を受けたとしたらどうだろう、慄き苦しむであろう、また殺されようとしたらどうだろう、身もだえするような恐怖を感じることであろう、相手も同じなのだ。」と「我が身に置き換えて」考えてみる、ということです。
屠所に曳かれる牛や豚は殺されることを知ってか悲痛な鳴き声を発するそうです。人間だけではなく、鳥や獣や魚や虫もみな、暴力に怯え、死を恐れているのだと思います。
このように考えると牛や豚と苦しみや恐怖を同じくする「同悲」の心が生じて、全てが自分と繋がっていると感じるようになるのではないでしょうか。絶対に「殺してはならないし、殺さしめてはならない」のです。
日蓮聖人は、「一切の諸戒(仏教には五戒とか二百五十戒とかいろいろな戒があります。)の始はみな不殺生戒(命あるものを殺してはならない。)なり。上大聖(修行を重ねた上位の僧)より、下蚊虻(蚊や虻)に至るまで命を財とせざるはなし。これを奪えば又第一の重罪なり。如来(仏様)世に出で給いて生を愍むを本とす。生を愍むしるしには命を奪わず、施食(食べ物を布施する)を修するが第一の戒にて候なり。」(妙密上人御消息)と仰せられております。仏教の徹底した生命尊重の精神は、今後とも仏教の基本思想として広く伝えて行かなければならないでしょう。
kenyu.o
2018.11.16 撮影 ブッダガヤ金剛宝座
