第9章117偈

 

  人がもし

 悪いことをしたならば、

 それをり返すな。

 悪事あくじを心がけるな。 

 悪がつみかさなるのは

 苦しみである。

                          中村元博士訳

 

 

 

 

 

 

 

  解説

 

 平易な翻訳で難しい言葉もありませんので、誰でも分かる法句だと思います。

しかし、深く考えますと分からなくなってくるのです。「悪いこと」とは、ごく一般的な{悪いこと」と考えても良いかと思いますが、ここでは仏教でいう五戒ごかいに反する行為と考えた方が分かりやすいと思います。「五戒」は、仏教のごく初期に定められた仏教信者の生活規範です。それは、①不殺生戒ふせっしょうかい=生き物を殺さないこと。②不偸盗戒ふちゅうとうかい=他人の物を盗まないこと。③不邪淫戒ふじゃいんかい=よこしまな性関係を離れること。

不妄語戒ふもうごかいうそを言わないこと。⑤不飲酒戒ふおんじゅかい=飲酒を止めること。の五つの戒です。

即ち、「悪いことをした」とは、五戒に反する行為をしたということです。

 もう少し端的に申し上げますと、我執がしゅう(自分を一番大事なものとして、自分の利益を最優先する考え。)に基づく行為が悪い行為です。

 「悪が積み重なる」は、反省することなくその悪い行為を繰り返し、その結果、悪が積み重なるということです。悪い行為は習慣化しやすく、悪い行為そのものに喜びを感ずるということもあるのです。悪の集積は苦しみです。この世でも死後の世でも耐えがたい苦しみを受けるのです。善因には善果、悪因には悪果があるのです。

 「因果いんがの法則」、これは真理です。因果律いんがりつを無視する人間の無知が悪を積み重ねるのです。

 日蓮聖人は、「それ水は寒さ積もればこおりとなる。雪は年かさなって水精すいしょうとなる。悪積もれば地獄となる。善積もれば仏となる。」(南條殿女房御返事)と仰せられております。以て心に銘記すべきでしょう。           kenyu.o

 

 

 

 

  2018.11.19撮影 入滅の地クシナガラ