第5章69偈
愚かな者は、
悪いことを行なっても、
その報いの現われないあいだは、
それを蜜のように思いなす。
しかし
その罪の報いの現われたときには、
苦悩を受ける。
中村元博士訳
解説
「愚かな者」とは、国語辞典等によると、「知能。理解力が乏しい者」というこ
とになるでしょう。Oxfordの「The Dhammapada」では、「childish one」と訳
しています。「幼稚な者」というような意味でしょうか。しかし、仏教的には、
「因果の道理を知らない者」ということになるのではないかと思います。因果と
は、結果には必ず原因があるということです。日本人であれば一度は聞いたことが
ある「善因善果、悪因悪果」のことです。しかし、結果が現れるのは、時間的に直
ぐの場合もあるし、ずっと後の場合もあります。現世の場合もあれば来世の場合も
あるのです。
因みに相応する結果がいつ現れるのかわ全く分かりません。ですから、因果の真
理を知らない者は、悪事を行なっても、悪果が現れない間(Oxford本ではnot yet
maturedと訳しています。)は、悪事を行なったとは思わず、まるで蜜の甘さを味
わっているような気分で居るのです。しかし、悪果(罪の報い)が現れた時に、そ
の罪に相応する苦しみを受けるのです。その悪果は、悪事を行なった本人だけでは
なく、その家族や子孫や社会にも影響を及ぼすのです。
日蓮聖人は、「悪の中の大悪は我が身に其の苦をうくるのみならず、子と孫と末
七代までもかかり候いけるなり。善の中の大善も又々かくのごとし。」と仰せにな
っております(盂蘭盆御書)。悪行は身体的な行為だけではなく、言葉や心での悪
行もあるのです。善行も同じです。
Good cause Good effect Bad cause Bad effect.
kenyu.o
初転法輪像 サールナート(ミガダーヤ・鹿野苑)
初転法輪寺蔵 2018.11.15撮影