第3章33偈
心は、動揺し、ざわめき、
護り難く、制し難い。
英知ある人は
これを直くする。
ーー弓師が矢の弦を
直くするように。
中村元博士訳
解説
この中村博士の訳を私なりに言い換えてみますと、「心は、止まることなく、揺れ動き、ざわめき、保護し難く、制御し難い。知恵ある人は自らこれを直く(正しく)する。弓師が箭(矢の柄)を直く(真っ直ぐに)するように」と、このようになるでしょうか。ただ、「矢の弦」については、弦は「つる、ゆみづる」の意味ですから、箭(矢の柄)の意味にはならず、弦か箭かどちらであるか迷いました。友松博士の訳では、「箭」となっておりますし、またOxford版の「The Dhammapada」では「an arrow shaft」になっておりますので、ここでは、「箭」と解釈することにしました。
古歌に「こころこそ こころ迷わす こころなれ こころにこころ こころゆるすな」とあります。また、「移りゆく はじめも果ても 白雲の あやしきものは 心
なりけり」(太田垣連月尼)という歌もあります。心ほど不安定なものはありません。捉え難く、軽々しく、欲望のまま動き回る。自分の心でありながら、なかなか自分でも制御できないのです。ブッダは「自分の心をよくととのえるために励みなさい」とご教示されます。
日蓮聖人は、「意(こころ)と云う物は、一切衆生我等が身中に持ちながら、都て之を知らざる也。我心さへ知らず見ず、況や人の上をや」(十二因縁御書)、また「心の師とはなるとも心を師とすべからずと仏は記し給なり」(義浄房御書)。
欲望のまま動き回る心を師としてはなりません。心の師となり、心を制御し、心を直く(正しく)しなければならないのです。 kenyu.o
ブッダ誕生 マーヤー夫人の右脇から誕生したと言われる。
ルンビニー マーヤー堂(マーヤー夫人を祀る祠堂)蔵
2018.11.21撮影