第1章6偈
「われらは、ここにあって死ぬはずのもの
である」と覚悟をしよう。
ーーこのことわりを他の人々は知ってい
ない。
しかし、このことわりを知る人々があれ
ば、
争いはしずまる。
中村元博士 訳
解説
仏教の基本的な主張は、「諸行無常」「諸法無我」「涅槃寂静」の三に「一
切皆苦」を加えた四で、これを三法印または四法印と言います。今回は、「諸行無
常」について説明し、他の三については、後日の機会に譲りたいと思います。
「諸行無常」は、全ての現象は、一瞬も停止することなく、生滅変化するという
ことです。これは、現在の自然科学でも説くところです。
実際は、存在するように見えますが、智慧の眼でみると、実体のない物質的な現
象にほかならないのです。この物質的な現象は、絶えず変転し続けて止むことがな
いのです。鴨長明は方丈記で「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水に
あらず。よどみに浮かぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまるためしな
し。世の中にある人と棲と、又かくのごとし。」と述べております。
「このことわりを知る人々」とは、諸行無常の理を知る人々を指しています。こ
の理を知る人々は、執着(こだわり)の無意味なことを悟りますから、争いの気
持ちが生じません。そして、一切の争いを止めて、和らいだ気持ちになって、一切
を許し、一切に許されて死んでゆきたいという心境になります。
人間同士の争いは死によって清算されてしまう虚しさ儚さを、松尾芭蕉は「夏草
や兵どもが夢の跡」と詠んでおります。
kenyu.o
The repletion
〇All creaturs die by all means. Let's think deeply about this truth.
釈尊絵伝「牧女の供養」(野生司香雪画/仏教伝道協会蔵)