第1章5偈

 

  実にこの世においては、

 うらみに報いるに怨みをもってしたならば、

 ついに怨みのむことがない。

 怨みをすててこそ息む。

 これは永遠の真理しんりである。

                                   中村元博士訳

 

 

 

  解説

 

   人間関係が複雑になるにつれて、意識的にも無意識的にも、私たちは相互に傷

  つけ合い、うらみ恨まれて生きていかなければなりません。どんな人であっても、

  自身に受けた恨みを忘れることはできないでしょう。恨みに報復すると、また報

  復されます。これは恨みが消えない限りは永遠に続きます。恨まず、怨みかえさ

  ずに生きることができるものでしょうか?。ブッダは「恨みは恨みをすててこそ

  む」と教示します。

   怨みの根元は執着しゅうじゃくで、仏教語で言えば渇愛かつあい(喉の渇いた人が水を欲するよう

  な激しい欲望)です。これを滅した無我むがの状態になれば、怨みは消える訳です

  が、そう簡単にはブッダの悟りの境地を味わうことはできないでしょう。一般的

  には、この教示をよく読み、考え、理解し、常に忍耐と慈悲じひいつくしみ、哀れみ)

  の心をもって生活すると、徐々に恨みを捨てることができるような境地になって

  行くのではないかと思います。

   スリランカのジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナは、1951年、当時蔵相

  でしたが、サンフランシスコ講和会議に代表として参加し、この5番目の偈を挙

  げ、日本への戦時賠償請求を放棄する演説を行いました。彼は、法句経の実践者

  だったのです。彼のみならず、スリランカの国民の多くは、法句経をよく読み、

  ブッダの教示を日常生活で実践しているのです。

                                                    kenyu.o

 

  

 The repletion

  〇Hatred ceases not by hatred,but by love.(1951/09/06 Jayewardene)

 

 

 

  

   釈尊絵伝「出城」(野生司香雪画/仏教伝道協会蔵)