犬の転移性肺がんに抗がん剤を使うべきか否かは、
感染のリスクがあったり、明らかなエビデンスが無いこともあり、
議論の分かれるところです。
当院ではオーナー様とご相談の上、
できるだけQOLを落とさないように抗がん剤治療を行っています。
Cくんは9才のミックス犬、人懐こい性格で町のアイドルです。
5年前からある胸のしこりの急速増大を主訴に来院されました。
診断の結果は悪性乳腺腫瘍です。
ただし、詳しい検査の結果、肺と脾臓にも腫瘍があることがわかりました。
特に肺の腫瘍は増大増数が速く、転移性肺癌の疑いが濃厚です。
このような症例では全ての腫瘍を手術で取りきったとしても、
全身に散らばったがん細胞がすぐに再発するおそれがあります。
そこで、
①乳腺腫瘍にはメスを入れない光温熱療法
②肺腫瘍には3週に1回の抗がん剤治療
③脾臓腫瘍は経過観察
を提示しました。
治療開始から1ヶ月、光温熱療法により乳腺腫瘍は増大しなくなり、
問題が肺腫瘍に絞られたため、治療は抗がん剤をメインに進められました。
治療開始から6ヶ月、
肺腫瘍は増大していますが、呼吸状態は比較的安定していて、
大好きなお散歩は毎日欠かさずいくそうです。
このころから治療目的はガンを押さえ込むことではなく、
痛みや呼吸困難を取り除く対症療法にシフトして行きます。
今回の治療はいたずらな延命でなく、
残された時間を快適に過ごすために行われました。
難治性の末期がんでも、つらい思いをさせないために
行うがん治療もあると考えています。
Cちゃんはなんと言っても町のアイドルです。
ガンがあっても元気に散歩するその姿が、
今もご近所のみんなを力づけているそうです!