(プレジデントオンライン)
PRESIDENT 2011年5月30日号 掲載
■一家避難を決めた「結婚当初のルール」
2011年3月11日の東日本大震災の際、私は学部長を務めている都内の大学にいました。なんとか自宅マンションに帰ると、16階の部屋は飾ってあった置物や本棚から崩れ落ちた書籍が床に積み重なり、ひたすら怯えている愛犬の姿が。その様子に、尋常ではなかった揺れの大きさを想像し、「自分が家にいたらどうなっていたことか」とゾッとしたものです。それから4日後の15日。私は妻と息子、娘、愛犬を連れて、年老いた母が暮らす三重県へ向かいました。原発事故の影響を考えて決断した、一家での避難です。
三重県には22日までの1週間滞在しましたが、この判断については賛否両論あるでしょう。大学の学部長が東京からいなくなってしまうのですから、敵前逃亡と思われても仕方ありません。私なりに「家庭を第一に」という考えに基づいて行動したのです。
「仕事と家庭のどちらを優先させるか」、これは家族を持つ男性にとってはなかなか難しい選択です。私は結婚当初から、同じnike うにフルタイムで働く妻と“家庭51%、仕事49%”の比率で最後のギリギリのところでは家庭を優先させると決めていました。さらに、これを単なる決めごとではなく、「家庭が第一」と心から思えたひとつの出来事がありました。
それは1993年。40代前半だった私は、日本のテレビ局のキャスターとして行ったモスクワで取材中、銃撃戦に巻き込まれたのです。弾が頭上を飛び交うなか、「俺はここで死ぬかもしれない」と覚悟した。そのとき、周りの景色が急にスローモーションになり、家族の顔が目の前に浮かんだのです。
ほんの1秒くらいのことなのですが、そのとき初めて、自分にとって何が大切かを自覚しました。やっぱり家族なんだな、と。それからは、「仕事か家庭か」と迫られたら、迷うことなく「家族」と答え、相応の選択を行ってきました。フリーの記者や大学の教授など、個人単位で働いていたからこそできたのかもしれません。組織にあまり縛られない立場だけに、「ラクでいいよね」と言われることもよくあります。
企業などの組織に属していても、仕事をばりばりこなしつつ、いざというときは仕事より家庭を優先することもかまわないはずです。それなのに、日本のビジネスマンは常に会社に縛られているイメージが強いのはなぜでしょうか。
もちろん、「ここは自分がいないとダメだ」という使命感に燃えて仕事を優先している人もいるでしょう。けれど、「また休んでいる」「あいつ、逃げたな」と他人からネガティブに見られることを過度に恐れている人が大半なのではないでしょうか。他人の目を気にして周りに合わせているのであれば、それは非常にもったいないことです。判断力が欠如していると取られても仕方がありません。
普段から、自分にとって1番に優先すべきものは何か、2番目は何かといったプライオリティをつけていないと、今回の震災のような突発的なトラブルが起きたとき、迅速な行動が取れなくなってしまいます。会社を経営している私の妻は、地震後すぐ、全社員に自宅待機を通達しました。そして避難先の三重県のホテルから、パソコンで商品の受注や発注、納品作業を行っていました。
もし自分が会社に残ってやらなければならないことがあるのなら、まずは家族を安全な場所に避難させることも考えるべきです。危険を察知したら、迅速に判断する。これが家族、部下、自分を守る最善の手段ではないでしょうか。
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