こんばんは
昨日の、挑発のヨンサイドを書いてみましたが、エライ長くなってしまった
お話
ぱーとなぁだから、毎日決まった時間に、この王宮の外れの東屋で会おうと…
イムジャが俺にそう言った
胸の奥に燻るような違和感を感じ、それが妙に甘酸っぱく感じた
その言葉はなぜか耳に心地よかった
とはいえ職務の合間だ
相手がいくら医仙の立場でもあるイムジャとあれど、毎日というのは難しい
しかし時間が近づくにつれ、どうも落ち着かず、心が浮足立ってしまうのだ
薄ら感じる己の中の小さな変化
所用で約束の時間に行く事が叶わぬ日は、あの方はどうしたかと気が気でない
待てども俺が来ないと、口を小さく尖らせ、ふて腐れてはおらぬだろうか?
待ちくたびれてはおらぬだろうか?
今日は雨だが濡れてはおらぬか?
諦めちゃんと無事に帰っただろうか?
自分の目で確認できぬが故、数生まれる懸念は拭い去れやしない
あの日以来、心配事が尽きなくなった
つまりは、心の中で一日に何度も巡回させながら過ごす日々を送る羽目になる
そして連日行けぬ日が続き、ついには耐えれぬようになったある日の事…
俺はテマナに確認しに行かせたんだ
その後それがテマナの習慣となった
翌日からは、気を利かせたテマナの判断で、俺が特段指示をせずとも
その日のイムジャの様子がどうであったか、自然と報告があがるようになった
さらにはテマナは、それ以外の時間まで様子を窺い、俺にイムジャの一挙一動を報告するようになる
監視させているつもりは毛頭無かった
しかし、俺はテマナの行動を止めろという事も出来なかった
それは、王宮の外れの東屋での、イムジャと俺との、二人だけの逢瀬…
危うくそんな風に錯覚しそうになる愚か者にとって、好都合でもあったからだ
何故ならイムジャに苦言を呈せば、思わず綻びそうになる表情は自然と硬くなる
体裁を取り繕う事が出来る
天界にお帰しすべき方だという事を忘れ、浮つきそうになる心を戒める事ができる
それが故テマナに止めろと言えなかった
その日も俺はこの方に、そんな話をしようとしていたところだった
開口一番、イムジャは顔をクシュリとさせ「本当に、堅物なんだから…」とぶつくさと文句を垂れる
思った通り唇を尖らせ不満顔だ
やはりな。と思ったチェヨンの目じりは下がり、口の端がふっとあがる
ウンスの表情を見眺めるように、上から下へと視線を落としていく…
と、つんと尖った先から目が離せなくなる
「ねぇ?どうしたの?」
突然動きを止め、言葉を発しないチェヨンを不思議に思い、ウンスがキョトンとした顔で覗き込んだ
ウンスの声に気づいて、唇の形をなぞらえていた、己の視線の行く先にハッとする
チェヨンの大きな黒目が左右に揺らぐ
「なっ…んでもありませぬ」
俺は小さく強張らせた表情のまま、気づかれぬように唾を飲み込んだ
そして、気を取り直し小言を続ける
「イムジャを良く思わず、行動に難癖をつけんと狙う者たちが居るのです。なればもう少し…」
今まさに不埒な想いを抱えそうになった男は、どこのどいつだと内心思いながら…
己を棚に上げ渋い顔を作り上げた
「ちょっと」
俺の言葉を遮ったイムジャは
「なんです?」
「ねぇ、そもそも、難癖をつけてばかりなのは、どこの誰かしら?」
と、首を斜めに傾げると、大きな目で俺を見上げて言った
「なんの事です…」
イムジャは露骨に首を傾げる。最近気づいたがそれは、この方の癖だ
「いっちば~~~~ん、煩い人が今、私の傍にいる気がするけど?」
向けられる表情に、胸が鳴る
そこに意識を取られながらも、目の前でくるくると繰り広げられる動きを視線で追う
「ふふっ。おかしい。今日の小言の主は、灯台元暗しだわ。ねぇ、その意味知ってる?」
「イムジャ」
「高麗にもあるのかしら?灯台元暗しって、ことわざ。どうなの?」
俺をからかうようなふざけた様子で、まったく反省の色を見せようとしないイムジャに
「イムジャ!!」
と、少し強い口調で窘めるように言うと
「はい、はい。分かったわよ」と、手をひらつかせ、鬱陶しそうに顔を顰める
もう、それ以上を言うなとでもいったような顔をして見せた
さらには、淵に座っていた俺の前で体を小さく折り曲げると、膝に手を付き見上げるよう覗き込んできた
「ねぇ、あなたっていつもそんな?」
「何のことです…」
「他の女の人と会っている時でも、いつも、そ~んな感じなの?」
イムジャの口調は、「そ~んな」に特に力が入り、良からぬ含みなのだと俺でも分かる
女と会っている時、それも何を意味して言っておるのか…と思ったが…
そこは敢えて口には出さず、訝しげな顔をしウンスを見返した
「他の女なんか会いませぬ」
と、言いかけたが、イムジャの次の言葉にかき消されてしまう
「だから、こんなにイケメンなのに、女にモテないのね…納得だわ」
イムジャは横に顔を向けると、俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声音で、態と冷やかし事を言っているようだ
「チェ・ヨン将軍は、高潔無欲じゃなく、単なるがんこ爺ね。頭の固い年寄りみたい」
ぶつくさ頷きながら言う、その様子が可笑しく、くっと笑いが零れそうになるのを、腹に力を入れて耐える
「ほら、そんな怖い顔しちゃって」
「怖い顔など…元からです」
「ふ~ん。そうなの、だから、その年にもなって、奥さんもいないのね。だって昔の人って結婚早いんでしょ?」
「別に俺は…したいとも」
「したいって言っても、そんなんじゃ、奥さんになる人は大変だわ」
イムジャは今度は、はっきりと口に出し、皮肉を言ってきたようだ
「実は、すっごく純情BOYとか?」
「あっ、そうか。奥手なの?」
「女の人が苦手なんでしょ?」
「バツイチだったりして?」
「もしかしたら、男が好き?」
返事をしないでいると、止まらないようになったイムジャの口が捲し立てる
出てくる話にはまとまりなく、四方八方に飛びかっていくようだった
俺は、よくもまぁ、次から次へと、出てくるものだと思う
「ねぇ、そうだ。好きな人はいるの?」
「どんな人がタイプなの?昔の女って、静かに男の後ろをついて回るような、静かな人?」
「やだ、だんまり?」
俺は曖昧に流し、横目で時々見遣った
しばらくすると飽きたのか静かになって、やっと黙ったと思ってほっとした矢先…
次の瞬間、まったく予期しない言葉が、イムジャの口から告げられたのだった
「ねぇ、チェヨンssi。もしかして、キスしたことないんでしょ?」
どうして、この話の流れから、そこまで話を飛躍するのか理解に苦しんだ
天界の女人は皆こうなのか?それとも、この方だけなのだろうか?
さらに理解に苦しむのは、そう言って俺のすぐ目の前に、顔を突出して来た事だ
なにを考えているのだ?一体どういうつもりだ?と、チェヨンは困惑をする
俺の傍にポンと寄せられたのは、イムジャの顔だけではない
目下にはイムジャの唇を…今にも触れてしまいそうな距離に、突き付けられたのだ
喉が上から下へと大きく動く
唾があがり飲みこんだ音が、鳴り聞こえてしまうのではないかと戸惑った
ん~と、顎を上向け突き出された唇
これを、俺にどうせよというのか?
敵を前にし、次取るべき行動、判断に時間が取られる事は命とりだ
そんな事を考えるより先に体が動く
しかし、俺の体は少しも動く事が出来ず、その場で凍りついた
体が凍りつくのとほぼ同時に、思考も停止してしまった
ほんの少しでも動いてしまえば、唇と唇が触れるほど、近い距離だった
冷静な判断が出来ず、考えあぐねていると、さらにイムジャの大きな眸が、ゆっくりと閉じられた
なっ…なにを…?
ドクンっ、ドクンっ、と、心臓が大きく音を立てて打ちなった
どうせよと?
息が出来なかったためだろうか、胸が締め付けられるように苦しく感じる
おそらく数秒にしか満たないだろう時間
しかし、時がまるでコマ送りのように、ゆっくりゆっくりと、刻まれていく
耐えろ、動いてはならぬ、このまま、何もせず耐えるんだ、動くな
真意が掴めぬ状況ではどうにもならぬ
奥歯を強く噛みしめると、膝に置いた拳をきつく握りしめた
だが、何もできないもどかしさが歯痒く思え、耐える時間がじれったかった
無言のこの時から、一刻も早く逃れたいと、俺の口から飛び出ていた
「イムジャ、どうしたのですか?して…くださるのでは…?」
そう言葉を発すると、ぴくんとイムジャの躰が震え、落ちた瞼が上に見開かれた
目と鼻の先にあるウンスの目が、これでもかと、大きく開かれて
「ばっばっばか!何で避けないのよ」
赤面し慌てた様子で、後ろにつんのめりながら立ち上がると、指を突き立ててきた
その指を上下に振りながら、口はあんぐりと大きく開いている
口は、ぱくぱくとするだけで、どうやら上手く言葉にできない様子
この方は俺をからかったのだ
やはり、本気ではなかったのかと、イムジャの様子から悟ってしまった
不自然な鼓動を繰り返していた胸が、針の先で突かれたように、チクンと痛んだ
本気にしかけた事が無性に悔しかった
池の淵から、すくりと立ち上がると、イムジャの顔を覗き込むよう腰を曲げた
先程イムジャから突き付けられたのと、同じ台詞をそっくりそのまま返した
「イムジャ。もしかして、口づけをしたことがないのですか?」
見て取れるほど赤くなったイムジャは
「ひっ、酷い!最低!!」
捨て台詞を残して、背を向ける
そして、そのまま俺から逃げ出すように、小走りで立ち去ってしまった
今追えば…どうする?どうしたらよい?
しかし、俺は、立ち去るイムジャを追いかけ、止める事を躊躇してしまった
「イムジャ……」
追いかけてどうせよというのか、その結論を出す事が出来なかった為だった
天界に御帰しする御方だ
去るイムジャの背を追いかけ、その手を強く掴んで引き止め、それから先は?
それから先はどうせよと?
握りしめた手をどうすればよい?
俺は、一体、どうしたらいいのか?
乱れた今の心情では上手く、答えを見つける事ができなかった
はぁと、大きくため息をつき、辺りを見回し、誰の視線も無い事を確認する
池のほとりの柵にもたれ掛るように、ずるずると地べたにしゃがみこんだ
馬鹿な…俺は何を期待した?
あの瞬間、俺は期待しを、落胆をした
それは、己自身がよく分かっていた
イムジャは、酷いとか、最低とか、確かそんな風に言っておったか?
ふっと、鼻から掠れた笑いが漏れる
「酷い御方はどちらだ」
未だ、不快なほど胸が、どくんどくんと、大きな音を立てて鳴り響いていた
あの時俺が感じたのは落胆…
だが、一歩踏み出してしまえば、おそらくそこから逃れる事もできない
しかしそこには、輝かしい終着点もない
例え、終着点へと、辿り着いても、俺は…俺は、進んだ道を引き返せねばならぬのだろう
全てが、まるでなかったかのように
一歩、一歩と、あの方を光の中へと、送り出し、闇の中を、一歩、また一歩と、戻る事になる
これはまさに出口のない闇の迷路だ
チェヨンは口の端に自嘲の笑みを浮かべると、大きなため息を落としたのだった
(コショッとお借りした画像が含まれます…
再配布厳禁ですよ )
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