【お話】 チュンソクの指南10 | 信義(シンイ)二次小説

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小説でちょうどこのシーンを読んで、チェヨンの心情は合わせたつもりです
チェヨンがウンスに惹かれていくその過程が伝わっていればいいのですが…


  お話

「イムジャが王命で、キチョルの屋敷に無理やり連行された事を覚えておるか?」
「もちろん覚えておりますとも」
チュンソクは深く頷いた
徳成府院君キチョルの屋敷に、半ば脅されるような形で連れ去られてしまった
それは意識を取り戻した俺を待ち受けていた、思いもよらぬ報告だった
耳にした瞬間、身の毛がよだった
それと共に己のあまりの不甲斐なさに、腹の底からこみ上げる激しい怒りに震えた
守るなどと軽々しく口にしておいて、俺は何もできず意識を失っていたというのか…
情けない自分をこの場で斬り捨てる事が出来れば、どんなに良いだろうか
怒りにわなわなと震える体を鎮めようと、歯茎を食いしばり強く拳を握りしめた
あいつがイムジャを連れ去った明確な真意が掴めぬ今、状況は一刻をも争う非常事態
自分の体の痛みなど、あの方が置かれている立場を思えば、気に掛ける余裕すらなく
息をつくのも苦しい身を起こし、決死の覚悟でイムジャを連れ戻せんと馬を走らせた
「生死を彷徨ったばかりの、あのような衰弱された体で敵地に乗り込むとは、正気の沙汰ではないと皆…」
どれ程あの時この方の事を、ウダルチの仲間達が心配をしたか、忘れられるわけがないと、チュンソクは思った
義を通すためであれば自分の身の危険をも顧みず、平気で無茶をなさる御方だから
「それに王命でしたので…」
王命に逆らう事が何を意味をするか
無事にあの方を取り戻しても、その後に待ち受けている沙汰を思えば、心穏やかで居られる者など何処におるだろう
もう過ぎた事とはいえ、ウダルチの皆は寿命が縮む思いだったと…酒も入った今、ここぞとばかりに苦言を呈す
当時を思い返し、苦笑いを浮かべたチュンソクに、反省の情が湧き上がってきた
「お前にはいつも迷惑をかけ…これでも、心からすまなく思っておるのだ…」
気まずく思い、チェヨンもつられて頬を引きつらせると、直視するのが憚れ伏せ目がちに視線を向け謝罪思いを伝えた
「正気の沙汰ではない…よな」
あのような体では、まともに立ち向かえぬ事も分からない俺ではない
「少しはご自覚はあるのですね」
そう言いチュンソクは笑いを堪える
それも相手は他でもない徳成府院君キチョル 、屋敷の防備に手抜かりはない
まるで手ぐすね引いて燃え盛る業火の中心へと、飛んで入る愚かな夏の虫だ
「だがそうせずにはいられなかった」
イムジャが、下った王命で連れていかれた以上、既に交渉の余地は残されてない
「みな、分かっておりました。テジャンがきっと迎えに行かれるだろうと」
気づけば、懐かしい呼び名が口に出た
チェヨンも懐かしい響きに、チュンソクを横目でみると、手に持つ杯を大きく煽って残った酒を飲みほした

薄汚い男達がイムジャに危害を加えていたらと思うと、喉元が激しく締め付けられるような思いだった
あいつらは頭を下げて易々と返すような相手ではなく、むしろ弱みを見せたら最後
だがあの方を人質に取られては強気に出る事もかなわず、だからといって下手に出て済む相手でもない
つまり打つ手は既にないも同然
それでも居てもたってもいられず、どうかあの方の無事な姿を見せてくれと…
一縷の望みにすべてを託した
お帰しすると約束を交わしたから?
お帰しするその日までお守りするのだと、責務を果たす必要があったから?
あの時の俺には「理由」など存在せず、義務も名分も何もかもがどうでもよく…
まともな策すらなくただあの方の元へと、なにかが俺を突き動かしていたのだ
ただ無事でいてくれと…それが全てで…
「だが何も策を持たぬ事が、それが時には最高の奇策となりうる」
チェヨンはポツリと呟くと、言っている自身に呆れくっくと喉を鳴らして笑う
「俺たちには到底真似出来ません」
あんぐりと半開きにした口から息をついて、もっと苦い顔をして見せた
「策がもう何処にもなければ…」
しかしそういう男だから、国を束ねる事が出来るのだとチュンソクは分かっていた
万人が思いつくような策であれば敵の意表をつく事など出来ないのだから
そしてそんなこの男に憔悴しているからこそ、常に傍にと自分自身が願っている
ならば気苦労はむしろ望むところだ
この役目は俺にしか務まらぬという自負がウダルチとしての、引いては副将としての誇りでもあるからだ
開き直った様子のこの方に、俺はむしろ畏敬の念を頂くのだから致し方ない
チュンソクは一度下向き笑いを漏らすと、凛と顔を真っ直ぐあげてその男に強い視線を向け言い放った
「正面突破ですね」
「正面突破だ」
互いが行き着いた「答え」が同じである事に二人は満足し、兵舎の部屋の中に二人の男の笑い声が響き渡った
そしてこいつは俺のもう一人の、最高のぱぁとなぁだと、チェヨンは思うのだ

あの時の事は生涯忘れられまい
チェヨンは当時の事を再び思い返した
生死すら分からぬ状況下で不安で胸が震え、呼吸する事さえ苦しく締め付けられる
その状況を直視する事は出来るのか?
あの方に万が一にも、もしもの事があれば俺は一体どうしたらよい?
自分の中で自問自答を繰り返すも、まともな答えなど出るわけがない
望まぬ現実を受け止める答えなど、もともと持ち合わせていないからだ
どうか御無事であってくれ…
そしてどうか再び俺に元気な姿を見せ、守りきれなかった愚かさを責め立ててくれ
全てを失ってもいいから…俺の命で代えられるものならそうさせてくれと…
俺は心底からそう願った
目を背けたくなる現実を見るのが怖くて、震える手に何とか力を込め扉を開いた
しかし天は非情ではなかった
目にしたのは凄惨な現実ではなく、ぱっと華開いたようなあの方の笑顔と涙だった
まさに闇と光が転じた瞬間
きっとそうなんだ…
あの瞬間から俺の心の中を覆っていた闇が取り払われ、少しずつ、少しずつ、俺は再び光を取り戻し始めた
「生きている…」
そういってイムジャは俺の頬を、暖かな掌で包み込むように触れた
どんなに責められても、それを受け止める覚悟はとうにできていたはずが…
不意打ちを食らったように、俺の体はぴたりと凍り付いてしまった
触れた頬に意識を向けて見れば、イムジャの掌の温度が俺の頬に伝わってくる
そして今まで目にした事もないような、満面の笑みが眼下に映り込んできた
それは間違いなくあの瞬間
俺はあの瞬間から息を吹き返し、止まっていた時が音を鳴らし動き始めたのだ

 


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