【お話・合成】 娘の誕生 (ウンスの出産1) | 信義(シンイ)二次小説

信義(シンイ)二次小説

りおのシンイParty☆


体を休め身支度を整えたイムジャが、俺の前に我が子を連れてきた
「ミレや。アッパよ」
その日俺は我が子を胸に抱いた

廊下からイムジャの足音が聞こえてきた途端、胸がせわしなくざわめき出す
逸る気持ちを抑えきれない
部屋の中で大人しく待っている事さえ出来ず、扉を力任せに開けると、中庭へと続く廊下へと飛び出した
陽の光が燦々と降り注いでくる
それがあまりに眩しく掌でひさしを作る
目を細めながら足音が聞こえてきた、その先を凝らし視線を向けると
あの方が娘に何か語りかけながら、こちらにやってくる姿が目に飛び込んできた

イムジャと幾夜も語り合い、おなごであれば未来(ミレ)という名をつける事にした
俺たちにとって、あると思っていた未来が、無残にも突然閉ざされた
未来が一転して悪夢へと変わる
だがお互いが二人の未来を信じていたからこそ、長い年月を経ても尚変わらぬ想いを胸に抱き続ける事が出来た
二人の未来を手にするため互いが、懸命に出来る限りの事を尽くした
一秒たりとも無駄にせず、後ろを振り返らず、前を向いて無我夢中でもがいた
共に「未来(ミレ)」の存在を信じていたからこそ、俺たちはこうして長年の想いを遂げる事ができた
そして何よりイムジャは他でもない、未来の世界からやってきた御方だ
良き未来を信じ、そしてイムジャがおった未来の世への足掛かりとなる時代を築き上げていって欲しい
そんな願いをこめ、俺たちが初めて迎える我が子の名を、未来(ミレ)と名付ける事に決めたのだった

今は亡き母上より受け継いだ、白い御包みに包み込まれた小さき存在
娘を大切そうに抱きかかえた、イムジャの姿が熱くなる眼の中に映し出された
戻ってきたらイムジャに何と労いの言葉をかけてやろうかと、待ちわびる間あれほど考えておったのに…
じんとこみ上げてきた想いが全身を駆け巡っていき、胸が締め付けられてしまう
苦しいほどで言葉にならない
「イムジャ…」
と、俺は小さく呟くと
それ以上何も言えなくなってしまう
イムジャに笑みを差し向け、慈愛の眼差しで見つめる事しか出来なかった
イムジャの顔がぱっと明るくなる
どうやら俺の存在に気付いたようだ
イムジャは零れ落ちてしまいそうなほど満面の笑みを浮かべつつ、足早に俺の元へと駆け寄ってきた
「そのように廊下を走り、赤子共々転んだらどうするのですか!」
いつものように咄嗟にそう口走りそうになるが、口の先まで出かかった小言の言葉を寸前の所で飲みこんだ
大義を果たした妻への感謝の思いが、今日は言わないでおいてやろうと思わせた
「ヨンァ…」
生まれたばかりの娘を連れてくる
「イムジャ…」
その笑顔にもっと胸が熱くなる
ほんの少しの間、俺たちは廊下に立ったまま互いに見つめ合った
そうあの木の下で再会した時に、二人ともそこから動けなかったように
俺もイムジャも動けなかった

しばらくすると、そろそろ部屋の中に入りましょとイムジャが促してきた
日差しが強く赤子にも良くないだろう
俺は「はい」と短く返事をし、イムジャと初めて目にする我が子と、共に部屋の中へと戻っていった
部屋の中に入っても、相変わらず胸がいっぱいで言葉にならなかった
そんな俺の気持ちを察してか、イムジャも笑みを湛え、何も言わずただ視線を交わして思いを伝えあう
俺とイムジャと二人、無事に子を産み落とした喜びを分かち合った
子を産み落とす折りに、命を落とすものは此処では珍しくはない
「私はきっと安産だから平気よ」
そんなイムジャの根拠もない慰めなど、なんの役にも立たなかった
イムジャと我が子に何かあれば…俺はどうしたら良いのかと、 此処何日も身につまされる思いでずっと過ごしてきた
俺がどのような想いで、今イムジャを見ておるのか…あなたは分かっておるだろうか
イムジャ…そして我が子…
表情に疲れは見られるものの、目の前におるのは元気な姿のイムジャだ
無事に愛しい我が子を胸に抱き、俺の前に紛れもなくその姿を見せているのだ
我が子がこの世に産まれ落ちるその時を待つ喜びの裏に、イムジャの無事を願う悲痛なほどの祈りを捧げる
俺は生きた心地がしなかった
だが天はこの方を…そして我が子をお見捨てにはならなかった
感謝の思いを捧げると共に、俺はここにきてやっと…心から安堵のため息をつく事が出来たのだった

ここ高麗はソウルとは違って、医療体制が十分ではないため、御産は命がけだった
私は骨盤の広さが普通より狭い
だから産道を赤ちゃんが降りてくるのに、だいぶ時間が掛かってしまった
「私はきっと安産だから平気よ」
この人を安心させようと、そうは言ったものの、やはり不安でいっぱいで…
私はちゃんと無事に、元気な赤ちゃんを産む事が出来るだろうか…
もしも御産の最中に、私とお腹の中の赤ちゃんに何か問題が起きたら…
そして何より、万が一の事があったら…この人はどうなってしまうのだろうか
私は次から次へと押し寄せてくる不安が、拭い去れないまま御産に臨んだ
現代人はなんて恵まれているのか
ドクターと言う立場でありながらも、その有り難味を分かってなかったように思う
今あなたの目の前に、赤ちゃんと一緒に立っている事が出来ている
それがどんなに幸いな事か
この幸せで胸がいっぱいの、私の想いをヨンァあなたに伝えたい
神様はちゃんと私達親子を、そしてあなたの事を守ってくれたのね
アッパ、オンマ
二人は今日この日、おじいちゃんと、おばあちゃんになったのよ
見せてあげる事は出来なかったけど、きっと、きっと、喜んでくれているよね?
だからこそ、無事にこの子を産むことが出来た…何だかそう思うの

ヨンとウンスは今我が子と三人過ごす事ができる幸せを胸に、それぞれの想いを巡らせたのだった

しばらくするとウンスは座敷に整えられた布団の上に一度赤子を置き、優しく声をかけながら御包みの中から出してやった
おぎゃぁ、おぎゃぁと、か細い赤子の声が部屋に響いている
「ミレや。パパに会いましょうね」
産まれたばかりの赤子は、御包みから出ると手足を小さくバタつかせながら、母となったウンスに抱きあげられた
「あら。嬉しいのね」
体を小さく揺すりあやしてやる
不思議だった
イムジャは俺の知る普段のこの方とは違う、母の顔をしていたのだ
俺はそんなイムジャの姿に目が奪われて、その場から動けないでいた
その姿がいつも以上に美しいと感じる
逆にウンスは、父となりどこか戸惑っている、チェヨンの挙動に気づくと
動く事が出来ずに、立ちすくんでいたチェヨン振り返って言う
「いつまでそうしているの?」
ウンスがくすくすと笑いを溢しながら、目を丸くさせおどけた顔をした
「ミレや。アッパよ」
赤子に愛おしそうに語りかける
そして、触れたら壊してしまうのではないかと思うほど、小さな小さな存在を俺へとそっと差し出してきた

恐る、恐る両手を差し出す
するとその上にこれが人なのかと思うほど、軽くて柔らかなものがポンと乗せられた
そこには俺の手の中で、間違いなく息づいている、我が子の存在があった
以前、俺は江華島の郡主に向かって、こう言った事があった
「子孫の事など考えた事もありませんので…」と確かそう告げた事がある
あの時は俺にこんな幸せな日が訪れるとは、思いもよらなかったのだ

この手の中に俺の子が…
イムジャの他に守りたいと思える者が、出来るなどと露程も思わなかった
考えたことすらなかった
それは余りに小さくて、脆そうで…そして胸いっぱいに愛おしさがこみ上げ…
俺がこの命を守ってやらねばならない…そう思えるほど儚く思える存在だった

「ヨンァ。ほら、抱いてあげて」
ウンスはチェヨンの腕に手を宛がうと、それを胸の方に押しつけた
「まだ首が安定してないから、ちゃんと首を支えてあげてね」
「くっ、首ですか?」
チェヨンがそう言った矢先赤子が動き、慌てて不自然に力が入ってしまう
手のひらから落ちそうになり、まだ柔らかな赤子の首がぐらりと傾いた
「あぁ、駄目よ」
赤子が激しく泣き始める
「ほら、ちょっとかして。もう、アッパったら、泣かしちゃって駄目ね」
チェヨンの手から赤子が取り上げられる
軽くなった腕に寂しさが残った
「イムジャ、俺は泣かしてなど…」
気まずそうにチェヨンは言った
「よしよし。いい子ね。父上ったら乱暴にするんだもの、びっくりしたわよね」
また小さく自分の躰と共に泣く娘を揺すりながら、ウンスは上手にあやした
「もう一度抱かせてください」
先程は急な事で勝手が分からなかっただけだ…俺とて娘を抱くくらい…
「ん?じゃぁ、ほら、見て?こうやってね、首を支えてあげるのよ」
ウンスのやり方をしっかり目にとめると、分かりましたと何度も頷いた
「ミレ。父上が呼んでいるわよ」
チェヨンにミレを再び手渡してやる
受け取った我が子を今度は腫れものを扱うよう、大切そうに抱きかかえた
「こうですか?」
「そうそう。いい感じ」
今度はうまく抱きかかえる事が出来た
しかし、すぐに泣きだしてしまった
「いっ…イムジャ…泣きました」
困惑してつい情けない声が出る
「くすくすっ。そりゃ泣くわよ。赤ちゃんは泣くのが仕事なの」
あら、鬼神と呼ばれるくらいのこの人が、赤ちゃんが泣いたくらいでこの姿なのね
思わず笑いが漏れ出てた
「泣くのが仕事…ですか?ならば、嫌がって泣いているわけではないのですね?」
「ヨンァあなたは父上なのよ。この子だって、お腹の中で聞いていた、あなたの声をちゃんと分かっているわよ」
「腹の中の声を?」
「天界ではね、そういう研究が進んでいるの。だからきっと、あなたと会えて嬉しくて泣いているのよ」
だから自信を持ってと微笑みかける
「分かりました」と嬉しそうに笑うヨンの姿を、ウンスは幸せそうに見つめた
この人のこんな顔ずっと見ていたい
これからもヨンァは、やらなくちゃいけない事がたくさんある
私とミレを置いて戦地に赴かないといけない日も、遠からずやってくるのだろう
だけどヨンァ。どの世界でも、母となった女って強いものなのよ
だから、私があなたの心も、そしてこの子の事も、絶対守って見せるから
ウンスは心の中でそう呟いて、二人の姿を眺めるのだった


 

 
ヨンは胸に我が子をぎゅーーと押し当てると、心の中で娘に語りかけた
「ミレや、父だぞ。よくぞ無事に生まれてきた。此れからは、この父が、母もお前もずっと守ってやる」
チェヨンは胸の中の娘に誓いを立てた

ヨンとウンスと、そして娘となったミレと…平凡で幸せな日々が訪れたのだ

 

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