退屈だ。
毎日毎日同じことの繰り返し。
毎日同じ時間に起きて、歯を磨いて、顔を洗って、
運ばれてきた朝食を食べ、皿をさげてもらい、
ベッドの上でひたすらぼんやりと過ごす。
昼になればまた食事が運ばれてきて、
味の薄いスープを一人ですする。
そしてまたぼんやりと過ごす。
昼にやってる泥沼なんてもう見飽きたし、
おやつのプリンも楽しみじゃなくなった。
ひたすら窓の外を眺めてすごす。
広い庭が見える。
明るい色の芝生の中に細身の木が何本かあしらわれ、
その周りを散歩するご老体と看護士たち。
色褪せたからっぽのベンチは寂しそうに影を落とし、
日は暮れていく。
夕食が運ばれてきて、運ばれていって、
身体を拭いて、歯を磨いて、
部屋の電気は落とされる。
うすぼんやりとチェストの輪郭が見えるような暗闇。
ゆっくりとまぶたを閉じる。
そしてまた同じような朝がやってくる。
いつになったらこの日常は壊れてくれるのだろう
刺激も何も無い、この死んだような日々を。
誰か―・・・。
そっと、窓に手を伸ばしてみる。
ひんやりとしたガラスの感触が、指を伝って足元まで。
こうしてみると、ああ、生きてるんだなと
ちょっぴり思ったりする。
まだ、生きてるんだなと
すごく思ったりする。
雨が降った。
今朝はザーザーという音で目が覚めた。
いつもと違う朝に、少しだけ興奮した。
寝起きの気持ち悪い口内を無視して、窓の外を見る。
誰も居ない庭を見たのは初めてだった。
日の光が差さない庭はなんとも薄気味悪かった。
あのベンチも、また色が落ちるだろう。
そう思って、ベンチに目を向けた。
・・・誰かが座っている。
散歩中のご老体でも、付き添いのナースでもない。
あれは一体、誰なんだろう。
顔は見えない。背丈は私より少し高いくらい。
なぜか、気になってしょうがなかった。
あれが誰なのか。
なぜ雨の中外にいるのか。
日常を崩してくれた彼にお礼が言いたい気持ちになって、
看護士たちに見つからないよう部屋を出た。
薄暗い廊下を、音を立てないよう裸足で走る。
ぺたぺたという生々しい音が耳に心地いい。
ナースステーションを回避して、
スタッフ専用の玄関から外に出た。
夢中になりすぎてドアを閉めるのを忘れてしまった。
今思うと、あのときちゃんとドアを閉めていくべきだった。
開けっ放しにしたせいで、玄関がびちょびちょになったから。
びちょびちょになりながら、庭へ出た。
泥を蹴り、小石を踏み、芝生をまとわりつかせながら走る。走る。
ベンチが見えてきた。
あそこに、いる。
彼が、いる。
私の日常を崩してくれた、彼が─。
彼の肩をつかんだ私の手は、
見事に宙を掴んで見せた。
「えっ」
そうだ。
人がこんな雨の中で、
のんきにベンチに座っているわけがない。
そこには誰もいなかったのだから。
私は笑い出した。
自分がみじめで。情けなくて。
私の日常が生み出した、非日常を追いかけて
こんなにびちょびちょになって
足の裏から血を流して
ほんと、ばかみたいだ。
私はベンチに腰掛けた。
身体の力が抜けていく。
ずるずると、ベンチに横たわり。
まぶたが水を吸った砂のように重たい。
ずるずると、暗闇に吸い込まれていった。
だらしなく口をあけた私が冷たくなっていくころ、
雲をかきわけて太陽が顔を出し、
靄がかった空にプリズムを光らせた。
そして私の非日常はやってくる。