今回の小旅行の目的地は台南市の新営である。新営は台鉄高雄駅から自強号に乗って、約1時間程度。特にこれといった観光地は無い(と思われる)比較的小さな街である。今回なぜ新営に行こうと思ったのか・・・それは、司馬遼太郎の「街道をゆく(40) 台湾紀行」の中に出てくるからだ。「魂魄」と「沈乃霖先生」の章に、新営にまつわるエピソードが書かれている。非常に印象に残っていたが、台湾に来て「台湾紀行」を読み直し、ぜひ訪ねてみたいと思っていた。

 

 

司馬遼太郎の「街道をゆく(40) 台湾紀行」。

 

 ある土曜日の午後、台湾語の授業終了後に思い立ち、背包を背負って新営に向かった。新営駅は、小さな駅だが、日本の特急に相当する自強号の停車駅で、「台湾紀行」によると、戦前も急行が停まる駅だったらしい。
 夕方、新営駅に着くと、まずは駅の観光案内所に行ってみた。案内所はどうやらすでにしまっているようだったが、扉をノックすると、中からお兄さんが出てきて対応してくれた。何より、「台湾紀行」に出てくる内科医、沈乃霖先生の診療所がもしまだ残っているのであれば、訪ねてみたいと思い、案内所のお兄さんに聞いてみた。お兄さん自身は沈先生のことは知らないようだったが、すぐにネットで検索してくれ、診療所が残っているらしいことと、その住所を教えてくれた。また、新営のホテルも何軒か紹介してくれた。

 

台鉄新営駅。戦前も急行が停まる駅だったらしい。

 

 駅を出ると、中山路をまっすぐ沈先生の診療所を目指した。駅前のロータリーから診療所までの道沿いには、老建築物や老房子も見られ、期待に胸が高まる。まずはわき目も振らず、診療所の住所へ。
 

 

駅前ロータリーから延びる中山路沿いには、老建築物も見られる。

 

 そしてついに沈先生の診療所、沈内科と感動のご対面。沈内科は、まだ診療を続けているのではないかと思われるくらいきれいな状態で、そこに建っていた(中山路248号)。付近は今では少し寂れて、やや人通りが少なく寂しい感じもするが、駅前ロータリーからまっすぐ伸びる目抜き通りの中山路に位置すことから、沈内科が元々は新営の繁華な通りに位置し、重要な診療所であったことが想像される。興奮冷めやらぬまま、写真を撮ったり眺めたりしていると、怪しく見えたのか、隣のおばさんが出てきて、怪訝な顔で「どうしましたか?」と。「台湾紀行」を見せながら、沈内科を尋ねてきた理由を説明すると、おばさんは急に親切になり、いろいろと説明してくれた。曰く:沈先生は、東京大学の医学博士;10年以上前に、100歳で亡くなられた;お子さんが6人おられ、皆さん医学の道で偉くなられている;診療所はすでに閉じていて、誰も住んでいないが、先生の祭壇が中にあるため、親戚の方々が時々お参りに来られている;等々。
 実は中山路に面した診療所の入口はごく普通の間口の診療所だが、後ろ側が住宅で、奥行きが深く、大きな裏庭があり、沈先生がとても成功した地元の名士であったことが伺えた。先生の功績を記念して、診療所と住宅をそのままの状態で保存しているのだろう。
ちなみにネットで検索したところ、沈乃霖先生は、2008年7月に100歳でお亡くなりになられたとのこと。
 

 

 

ついに沈先生の診療所、沈内科と感動のご対面。

 

 今回の旅の一番の目的を果たした後、駅の案内所で紹介されたホテルのひとつ、君館商務旅館(民権路25之3号)へ向かった。途中、ほのかに昭和の香りが残る通りを通過。すかさず写真撮影。ホテルには5分ほどでたどり着いた。つまり、新営駅から沈内科までが約10分、沈内科からホテル君館商務旅館までが約5分といったところか。ホテルには幸い空室もあり、すぐにチェックイン。見覚えのある玄関とフロント。なんとそこは、高校時代の同級生が3年ほど前に仕事で来台した時に滞在したホテル。小生と同級生が約30年ぶりに再会したのがまさにそのロビーであった。新営は小さな街で、ホテルも少ないため、宿泊するならここが一番良いと思われる。値段も極めてリーズナブル。

 

 

ホテルへ向かう途中、ほのかに昭和の香りが残る通りを通過。

 

君館商務旅館(民権路25之3号)。新営で宿泊するならおすすめ。

 

 ホテルに荷物を置いたら、夕食を取りに外へ。飲食店が多く、にぎやかな通りは、ホテルから徒歩で直ぐの復興路。飲食店が密集するエリアをしばらく歩いて、結局羊肉の“寶家羊肉店”に入った。羊肉爐(羊肉火鍋)の小を注文。「羊肉」と言っても、台湾の場合は実際には「山羊肉」である。羊独特の臭いがほとんどなく、美味である。山羊肉火鍋とビールの組み合わせは最高。自由自在、至福のひと時。。。

 

 

 

 

夕食はにぎやかな復興路の羊肉店、“寶家羊肉店”で。羊肉爐(羊肉火鍋)を注文。

 

 食後には台湾スイーツの豆花で満足度2倍。豆花というのは豆腐に甘いトッピングを乗せたスイーツ。ホテルの横の、おじいさんが一人でやっている“新営豆花”(民権路15号)。客も少なく、不安もよぎったが、入って良かった。おそらく台湾でもトップクラスの美味しさだろう。

 

 

 

食後には台湾スイーツの豆花で満足度2倍。

 

 小生のFBを見た台湾人の古い友人より、新営名物は「豆菜麺」との情報あり。なんと彼の故郷は新営だった。そこで、翌朝、豆菜麺店を検索してみると、近くにそれらしき店があったので、朝食がてら、行ってみた。市場の中にあり、おばちゃんが一人でやっている小さな店だった(咪咪豆芽麺:成功街36-1号)。入口には確かに「豆菜麺」の表示があるが、メニューには「豆芽麺」と書いてある。。。おばちゃんにお任せしたところ、豆菜麺(豆芽麺)と豬血湯を出してくれた。味の方は、まあまあといったところ。友人ご推奨の新営名物、豆菜麺と思しき麺を食すことができたので、とりあえず満足。

 

 

 

 

新営名物、豆菜麺(豆芽麺)の店で朝食。

 

 朝食が終わると、新営駅に戻り、駅前のバスターミナルから、2日目の目的地”塩水”を目指すこととした。

 

 

著者: 大丸子。 男。 2017年3月より高雄駐在。 趣味: ジョギング゙、古鎮・老街めぐり、老房子鑑賞。