「よかったわ。あなた。昨日は大変だったね」
私が何のことかと首をかしげたのを見て、妻が説明した。
「昨日三時ごろに再び面会に来たら、すでに内視鏡室に切除のために部屋にいなかったので、看護師が一時間ぐらいで戻ってくるから待っていたらと勧められたの」
妻が、一息ついて続けた。
「戻ってきたのは三時間後。廊下からあなたの大いびきが聞こえたわ。看護師たちがベッドに寝かせてくれたあなたを起こすために、私は顔をたたいたんだけど、無理しない方がよいと看護師に言われたので、帰ったんです」
「そんな長く切除に時間がかかったのか。確か目が覚めたのは八時ごろだったかな」
私は、五時間ぐらい意識を失っていたのだ。
この部屋の患者は、通路側右は私、その奥は糖尿病かつ胃がんの七十八歳のA氏、通路側左はお腹の石を破壊のための再入院したB氏。その奥は、糖尿病のための入院のC氏だった。
私は、部屋では一番若いようだった。
看護師が毎日三回、血圧、体温そして酸素濃度を測りにやってくる。
糖尿の人たちには、血糖値測定が追加されていた。
私は、体温と血圧の値は、相変わらず高かった。
昼過ぎたころ、A氏のところに、看護師の出入りが頻繁になった。
「Aさん、このビデオを見てください」
看護師が糖尿病関係のビデオを映し出しているようだ。
それが終わると、管理栄養士が来て、説明室へA氏を連れていった。
戻ってくると、インシュリン注射の打ち方を看護師が説明し始めた。
「一日、三回なんて怖くて打てないよ。うたないで済む方法はないのですか」
「わかりました。先生に聞いてきます」
(年老いてから自分で注射を打たなければならないなんて、可哀そうだ。そういえば、大学の同期のKと入社同期のWもインシュリン注射を飲み会の前に打っていた。Kが皆の前で太ももに打ったのには驚いた)
私も入院する一年前から血糖値が高かったので、頻繁に検査を受けさせられていたが、まさか近い将来、自分もインシュリン注射を打つことになるとは、当時思いもよらなかった。
医師がAのところにやってきた。
「Aさん。この方法しかありません。自分の身体は自分で管理しなければだめです」
医師はそう強く言って、部屋を出ていった。
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