第3話【影 (うらのかお)】


秋山が死んで数日が過ぎると
学内は元の平穏な雰囲気を醸し出していた

・・・というより
あえて、その話題に触れないようにしているのが
みえみえだったが・・・


「なぁ、祐二。お前、聞いた?」

「え?・・・聞いた?って、何を?」

俺はてっきり秋山に関することだと思っていたが
正弘の話は違った・・・


「ほら、入学してすぐ≪ミス・クローバー≫ってあったろ?」

「・・・あぁ、新入生対象のミスコン?」

「そう。そこでさ、準ミスになった女の子がいたじゃん」

「あぁ・・・」

「その子にさ、ストーカーがひっついてるらしいぜ!」

「ストーカー??」

「あぁ、噂だけどな。どうやら学内の人間らしい・・・」

「ふ~ん・・・で?」

「で?・・・ってお前・・・まぁ、いいや
俺さ、こないだ見かけたんだけど、ほら学務課の城崎っているだろ」

「城崎・・・」

「学務課のカウンターのところにいる奴。
いつもパソばかり見ててさ、なんかにやついてるの・・・」

「あ・・・あぁ、あいつ・・・」

それは、俺がアパートを探しに来た時、無愛想な返事をした男だった

「そいつがさ、加藤になんか手紙みたいの渡しててさ
それを読んだ加藤が急におびえ出して・・・」

「・・・で?・・・」

「その後、城崎が加藤の肩を抱くようにして歩いて行ったんだ」

「・・・まさか」

「いや!そのまさかだと思うぜ。あいつ、加藤の弱み
なんか見つけたんだよ。だからその弱みに付け込んで・・・」

「・・付け込んで・・・なに?」

「はぁ~、なぁ祐二。お前なんでそんなに鈍なの??
あんだけ可愛い女だぜ、城崎みてぇなおやじが目ぇつけねぇわけねえだろ!?」

「・・・」

「あいつ、きっとやったんだぜ!弱み楯にして・・・」



加藤彩香・・・文学部1年

入学した当初から、俺たちの中では目立った存在だった
華やかというより、どこか質素なそれでいて清楚な感じのする女性
誰しもが今年のミス・クローバーは、彼女のものだと思っていた

だが、ミスの栄冠を勝ち取ったのは
法学部にいた、結城 綾だった・・・
加藤とは正反対に、煌びやかで華やか。高校の頃からモデルを
やっていた結城は、いつ芸能界入りしてもおかしくないほどの
美貌を持っていた・・・その華やかさは好き嫌いがあるだろうけど・・・

でも、俺たち男子の間では
清楚な加藤の方に、票が集まっていたのは事実だ


「・・・なぁ、祐二。聞いてる??」

「あ・・・あぁ聞いてる」

「それとさ・・・」

「・・・なに?」

「加藤には、もう一つ噂があって・・・」

「?なんだよ・・・」

「あいつ、学部の教授と寝てる・・・って」

「え!?・・・マジで?」

「いや・・・だから、噂だって・・・」

「・・・ふ~ん」

あの子が・・・そんなことしてるなんて・・・
たとえ噂だとしても、それらしきところがあるから噂になるわけだし・・・
でもなぁ~・・・あいつならひょっとして・・・

そんなことを思いながら
正弘と俺は、次の講義のために席を立った

廊下を歩きながら、俺の頭の中には
二人の顔が浮かんだ・・・

城崎のにやついた顔と田崎教授のエリート面・・・

田崎は古文学のほかに言語学にも見識が広く、数々の著書を発表し
その読みやすさとスマートな出で立ちで急激な人気を出していた
事実、田崎見たさにこの大学を選んでいる女子も
少なくない

でも、俺にはあの田崎のエリート面はどうしても好きになれない

個人的見解だが、俺には城崎と田崎が同じ顔に見えている

城崎の厭らしさを田崎はそのエリート面の裏に隠し持っている・・・

・・・

どうしてもその思いは消えない・・・




あいつが加藤と・・・

ほんとかどうかわからないが、そう考えるだけで
俺の心は無性にざわついた・・・